独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)電力エネルギー研究部門【部門長 大和田野 芳郎】は、財団法人 電気安全環境研究所【理事長 高木 宏明】(以下「JET」という)と共同で開発中の「 太陽光発電システム総合支援技術 」の成果をWebサイト『 PVSYSTEM.NET 』【 http://www.pvsystem.net/ 】(「PVSYSTEM.NET」は2011年に閉鎖しております。)として公開した。
本Webサイトは、『 ネット上の仮想的な太陽光発電システム(バーチャル・ソーラハウス) 』と『 太陽光発電システムの事例データベース 』等で構成される。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの受託研究「太陽光発電技術研究開発事業:大量導入に向けた共通基盤技術の研究開発及び調査 - 太陽光発電システム評価技術の研究開発」の成果としての「 太陽光発電システム総合支援技術 」を速やかに広く一般に公開し、利用者からのフィードバックを基に更に完成度の高い最終成果を作り上げることを目的として公開するものである。
バーチャル・ソーラハウス【図1】では、産総研が開発したシミュレーション技術を利用して、ユーザ自身によって自宅に太陽光発電システムを導入した際の発電量予測や発電コスト試算ができ、さらにデータベース(バーチャル・ソーラタウン)に登録することで修正・追加・削除を簡単に行うことができるようになる。自宅への太陽光発電システム設置を考えているユーザは、屋根の向きや面積を考慮した設計に役立てることができ、また既に設置済みのユーザは、過去(1995~2001年)の発電量予測値との比較により、自宅システムの運転状態のチェックができる。
事例データベース【図2】では、本研究開発の一環としてJETが運転データの収集・分析を実施中の住宅用太陽光発電システム(約100箇所)の他に、NEDOのフィールドテスト事業により設置された公共施設等用の太陽光発電システム(約250箇所)について、設備仕様と運転データの一部が閲覧可能であり、設計法の普及・発展への効果が期待される。
今後、シミュレーション技術の改良を進めると共に、「バーチャル・ソーラタウン」と「事例データベース」における「仮想」と「実在」のデータの統合を図る。また、システム竣工時の完成検査等にその場で使えるよう、シミュレーションとオンライン気象データを統合した発電性能診断ツールへと拡張する。更に、双方向通信による動的・面的なデータ収集・診断を行う発電性能診断ネットワークシステムを開発し、設計から施工、運用保守までをカバーする総合支援システムの開発を目指す。
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図1 バーチャル・ソーラハウス(シミュレーション)
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図2 太陽光発電システムの事例データベース
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太陽光発電システムの日々の発電量は、日照条件のみならず、気温・風速等の気象条件、日陰等の環境条件、太陽電池・パワーコンディショナ等の構成機器、太陽電池パネルの向きや取り付け方法等、様々な要因に影響される。従って、一般的な家電機器等と異なり、その発電量や発電性能を予測することが困難である。太陽光発電システムの発電量の予測を行うツールは、太陽電池メーカやソフトウェアメーカ、内外研究機関等から配布または販売されているものの、国内の住宅用システムについて予測精度は不明であり、日陰がかかる等の実際的な住宅環境において正確なシステム設計や性能検証に応用することが困難であった。
長年の産官学を挙げての研究開発の成果及び近年の種々の導入施策等により太陽光発電システムの導入は急速に進みつつあり、我が国は生産量、導入量共に世界のトップランナーとなった。しかしながら、上述の通り発電性能の把握・予測が困難であることから、「思い通りの発電性能が得られていないのではないか」と言ったユーザの声も多く、導入時の最適設計、施工時の品質検査及び運転時の故障診断等を総合的に支援する技術の開発が切望されていた。
産総研は、その前身である工業技術院時代から、昭和49年度に発足したサンシャイン計画(及びその後、平成5年度に再編されて発足したニューサンシャイン計画)を通じて、一貫して太陽光発電システムの研究開発に係わり、(1)導入普及・技術開発の継続的支援と、(2)導入量拡大のための新概念・新要素機器の提案を二本柱として、システム設計からリサイクルまで様々な課題に取り組んで来ている。
平成9年度に財団法人 日本品質保証機構(JQA)がNEDOの委託により開始した「住宅用太陽光発電システム(全国100箇所)の運転データ収集・評価プロジェクト」に対して、データ分析・評価等の協力を行い、実環境における太陽光発電システムの性能評価と設計法の開発に取り組んできた。平成13年度からは、JETと共同で「太陽光発電システム評価技術の研究開発」を実施し、運転データ収集・評価プロジェクトを引き継ぐと共に、これまでの分析結果の集大成を基に本シミュレーション技術を開発した。
太陽光発電システムの設計法として広く利用されている設計パラメータ法を利用して、各地の日射量等の気象データから発電量と発電性能を推定するシミュレーション技術を開発した。
各地の気象データとしては、気象庁観測所65地点の実測データの他、NEDOの委託により財団法人 日本気象協会(JWA)が開発した太陽光発電システム用標準気象データ(METPV)の約150地点における統計データを利用している。公開を開始したWebサイトのシミュレーションツールでは、太陽光発電システムの所在地を市町村名で指定することにより、最寄りの気象データが自動的に選ばれるようになっている。太陽光発電システムに入射する日射量についても、様々な方向を向いた太陽電池パネル面(最大4面)に対して日射量が自動的に計算される。シミュレーションで利用している設計パラメータは、前述の運転データ収集・評価プロジェクトのデータから算出している。つまり、本シミュレーションは、日本の住宅用太陽光発電システムの平均像を捉えることを目的としている。
実運転データとの比較によりシミュレーション精度を検証した結果、サイトに固有の特殊損失(例えば日陰等)が少ないシステムについては、月単位の発電量推定誤差が±10%未満であることが明らかになった。
今後、シミュレーション技術の改良を進めると共に、「バーチャル・ソーラタウン」と「事例データベース」における「仮想」と「実在」のデータの統合を図る。また、システム竣工時の完成検査等にその場で使えるよう、シミュレーションとオンライン気象データを統合した発電性能診断ツールへと拡張する。更に、双方向通信による動的・面的なデータ収集・診断を行う発電性能診断ネットワークシステムを開発し、設計から施工、運用保守までをカバーする総合支援システムの開発を目指す。