独立行政法人産業技術総合研究所 シナジーマテリアル研究センター【センター長 神崎 修三】環境認識材料チーム【チームリーダー 村山 宣光】は、既に同チームにおいて開発した熱電変換式ガスセンサ(昨年10月プレスリリース)の更なる開発を進めることにより、今回、動作温度100℃において250ppmから10%の濃度の水素ガスを定量的に検知可能とする濃度センサを国内で初めて開発した(他に装置を設けることで100%までの濃度計測可能)。
本センサは、水素エネルギーの普及を目指すために従来求められてきた濃度範囲(約0.05%~約4%)の定量的検知をカバーしており、小型でしかも低コストで製造可能な上、漏れ検知用/濃度計測用のどちらにも応用可能であることから実用化に向け最も可能性が高い。
本開発により、同センサが従来品に取って代わることは勿論、国内市場における影響は計り知れないものと想定でき、数ヶ月程度の短期間で飛躍的に成長すると予測される。
地球環境問題が大きな社会的課題となり、水素利用燃料電池を中心とする新たなクリーンエネルギーシステムの実用化に向けさまざまな技術開発が進められている。水素ガスは、潜在的に豊富な燃料であり、環境負荷が少ないといった利点がある反面、爆発しやすいという取り扱いにくさがある(爆発下限界濃度4%)。そのため水素利用に対する最優先課題は、燃料電池開発そのものではなく、システムを安心して利用するための安全対策に欠かせないセンサの開発である。
水素センサに求められる性能は、選択的に水素ガスだけに応答し、約0.05%から約4%の濃度範囲の水素ガスを誤動作することなく定量的に検知でき、小型で且つ低コストで製造できなければならないが、現状では、市販品は高価(システム一式で30~50万円)であり、また、次世代の燃料電池システムや触媒の研究開発・評価に不可欠な高濃度水素計測に対しても、現有のセンサを用いた計測では、応答速度が遅い、選択性がない、混在する他の種類のガスによりセンサが劣化・破損する等の問題を抱えており、開発・製品化は、未だ見通しがたっていない。水素エネルギー普及が始まると関連市場は数ヶ月程度の短期間で飛躍的に成長すると予測されるため、専門メーカーは高性能化・小型化・低コスト化等の研究開発を引き続き行っている。
独立行政法人産業技術総合研究所 シナジーマテリアル研究センター【センター長 神崎 修三】環境認識材料チーム【チームリーダー 村山 宣光】では、昨年10月にプレスリリースした、水素ガスと白金触媒との触媒発熱から発生する局部的な温度差を熱電変換材料により電圧信号に変換させ、これを検知・計測することを動作原理とする熱電変換式ガスセンサを基本とし、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の産業技術研究助成事業を受け、更なる研究開発を進めた結果、動作温度100℃において250ppmから10%の濃度の水素ガスを誤動作無く、再現性良く、定量的に検知でき、構造が簡単で信頼度が高い水素センサの開発に成功した。また、構造が簡単な希釈装置を設けることにより、水素濃度100%までの計測にも成功した。
本センサは、約60~180℃との広い温度範囲において電圧信号の変動が極めて小さいため、季節の変化又は計測するガス流による素子温度変化に対する補正を行う必要がない。そのため、周囲温度が著しく変化する環境にも問題なく使用できる。一方、本センサを一定温度に保って使用することもでき、この場合室温(25℃)でも十分使用可能であるが、本センサの動作温度を100℃とすることにより、触媒を常に活性に保ち、且つ温度安定性を与える2つの利点を付与できるメリットがある。本センサは、白金の高い水素選択性を動作原理として用いるため、優れた水素選択性を有する(動作温度100℃時、エタノールガスと比べ20倍以上)ことが特徴である。本センサは小型(有効素子面積1.0cm2以下)であり、薄膜プロセスを用いて作製できることから半導体プロセスに直接応用することも可能であり、本センサを含んだ注文型半導体(ASICやSoC(System-on-Chip))の開発も容易である。また、他の原理のガスセンサの対信号レベルの関係がガス濃度に対して対数的な関係を持つのに対し、本センサは、優れた直線性関係を持ち、水素濃度1%時におよそ1.0mVの信号電圧を自ら発生する。このため、出力信号処理にかかるさまざまな周辺装置を減らすことができるので、例えば燃料電池車の車載用センサとしても期待が持てる。
上記のように計測濃度範囲が広く、水素ガスに対する選択性が優れ、低消費電力である。また、構造が簡単なため、シリコン基板上への集積化に適しており、センサに求められる性能を十分に満足していることから、低コストで高信頼性の水素ガスセンサとして実用化に向け最も可能性が高い。本センサの特徴は、水素漏れ検知用、高濃度水素燃料ガスの濃度計測用のどちらでも応用可能である。特に従来、高濃度の水素を定量的に計測するためには、高価な分析装置(数百から1000万円位)が必要であったが、本センサを用いることで分析装置の価格を大幅下げることができる。このように、本センサは、今後水素濃度の計測を必要とするさまざまな技術への応用が期待される。
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図 新しい水素ガスセンサの動作原理 |
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素子写真 |