独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「 産総研 」という)海洋資源環境研究部門【部門長 宮崎 光旗】は、過去の地球磁場の方位(伏角)と強度の変動に10万年の周期的成分が含まれることを発見した。この周期は、地球軌道の離心率の変動周期及び、氷期-間氷期変動の周期と一致することから、地球磁場とこれらの変動は関連していることが明らかとなった。従来、地磁気変動は地球の外核だけで完結した現象と考えられていたが、地球システム変動全体の一部として理解する必要があることが明確となった。
本研究成果は、サイエンス誌3月29日号に掲載された。
○これまで地磁気変動には数万年以上の長周期成分は存在しないとされていた。
地磁気は、地球の外核で生成・維持されているが、地球の他圏とは独立していると考えられており、外核の物性から数万年以上の長周期成分は存在しないと考えられていた。
○産総研では、海底堆積物に記録された古地磁気変動に10万年の周期的成分を発見。
海底堆積物の残留磁化を高感度の磁力計で測定し、過去230万年間の地磁気伏角と強度の変動の連続的記録を得た。その周波数解析により、10万年の周期的成分を発見した。
○地磁気変動を地球システム変動の一部に位置づける必要性が明確となる。
地磁気変動で発見された10万年周期は、地球軌道の離心率及び氷期-間氷期変動の周期と一致し、地磁気変動を地球システム変動の一部として位置づける必要性を明らかにした。
今後、10万年周期のメカニズム解明のため、より多くの地点でのデータ収集・解析を行う予定である。さらには、地磁気を地球の持つ基本的環境の一つととらえ、地球磁場と人類を含む生命圏との関連解明を視野に入れた古地磁気研究も行う予定である。
地磁気は、数十年~数億年の広範なタイムスケールで変動をしている。海底の堆積物には、過去の地球磁場変動の痕跡が残留磁気として連続的に記録されている。産総研では、地質調査のための基盤的技術である地質年代決定の高度化を主な目的として、古地磁気の研究を行ってきた。古地磁気を用いた地質年代決定法としては、地磁気反転のパターンが地質学全般に広く用いられてきた。今回の発見は、海底堆積物を用いて過去200万年程度の古地磁気強度の変動パターンを解明して、地質年代推定ためのより高分解能の物差しを作ろうとする研究の中から生まれたものである。
西部赤道太平洋海域(ニューギニア沖)で採取された過去約230万年間に堆積した42m長の堆積物柱状試料ついて、微弱な残留磁気を高感度の磁力計で測定し、地磁気強度と伏角の連続的な変動記録を得た上で周波数解析を行った。その結果、地磁気伏角及び強度の変動に10万年の周期的成分が含まれることが明らかになった。10万年という周期は地球軌道の離心率の変動周期であり、また、最近約100万年間の氷期-間氷期サイクルの卓越周期でもある。従って、地球軌道の変動が直接あるいは古気候変動を通じて間接的に地磁気変動に影響しているものと考えられる。地磁気は、溶融した鉄が主成分である地球の外核における流体運動によって生成・維持されている(地磁気ダイナモ作用)。従来、地磁気ダイナモは核内で完結した現象であり、その変動には2万年程度より長い周期は存在しないと考えられていた。一部には気候変動が地磁気変動に影響するかもしれないというアイディアもあったが、具体的証拠は今まで得られていなかった。今回の発見により、地磁気ダイナモには核外からもエネルギーが供給されている可能性が強くなった。
地磁気変動はグローバルな現象であり、今回発見された10万年周期の変動のメカニズムを明らかにするためには、地球上のより多くの地点で古地磁気変動記録を得る必要があるため、さらにデータの取得・解析を行う。
地磁気は地球の持つ基本的環境の一つであり、その変動は、磁気圏の下で活動し進化してきた人類を含む生命に対しても影響してきたはずである。普段その存在を意識することが少ない地磁気であるが、地球環境研究という観点からも過去の地球磁場変動の実態を解明することは、今後ますます重要になると考えられる。今回発見された10万年周期以外にも、地磁気変動には数十年~数千年オーダーの変動があり、気候変動など地球システム変動との関連の有無が注目される。今後は、これらの観点からも研究をすすめていく予定である。