独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】電力エネルギー研究部門【部門長 大和田野 芳郎】は、マツダ株式会社【代表取締役社長 マーク・フィールズ】と共同で、軽合金の代名詞である「 Mg 」と「 Ti 」の二成分から構成される合金を初めて創ることに成功した。
従来、MgとTiからなる合金や金属間化合物は存在しないとされていたが、機械的な合金作製法であるメカニカルアロイング法を用い、その作製条件( MgとTiの配合比、アロイング時間等 )を最適化することで、BCC構造を有する Mg-Ti2元系合金が、作製可能であることを明らかにした。さらに、この合金が燃料電池自動車の水素貯蔵に対する要求特性を達成する可能性がある事を示した。このBCC構造を持つMg系合金の水素吸蔵特性を、同様にBCC構造を持つV系合金の特性から推定すると、金属原子1個当たり2個の水素原子を貯蔵する事が可能であることから、水素吸蔵量は5.0mass%以上、動作温度も373K以下が期待できる。これは従来、燃料電池自動車等に利用されている希土類系合金等と比較し、約3倍以上の水素貯蔵量に相当する。
今後、この合金の基本物性等を明らかにし、実用的な水素化特性を持つ合金開発を実施して行く予定である。さらに、耐摩耗特性等の機械的な特性も評価する事で、自動車部品等への適用も検討していく予定である。
本技術開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実施する「水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET計画)第II期研究」の基で進められた。
なお、本成果は、社団法人 日本金属学会2002年春期(第130回)大会【会期:2002.3.28-3.30 会場:東京理科大学神楽坂校舎(新宿区神楽坂1-3)】にて発表を予定している。
水素吸蔵合金や高圧ガスタンク等を水素貯蔵源とした燃料電池自動車の研究開発が進められている。現在開発されている燃料電池自動車の水素1充填当たりの走行距離を増加させるためには、水素を貯蔵放出させるのに必要な動作温度が373K以下で、高圧ガスタンクの水素貯蔵量(約4.0mass%以上)を超える水素貯蔵法の開発が必要とされている。例えば、水素吸蔵合金の現状として、Mg系合金は、水素吸蔵量は5.0mass%以上と多いが、523K以上の動作温度が必要である。また、BCC構造を持つV系合金は、動作温度は373K以下と低いが、実用的な水素吸蔵量は3.0mass%程度である。このように、燃料電池自動車の水素貯蔵源として水素吸蔵合金を用いる事を想定した場合、自動車からの要求特性を満足する合金は、未だ開発されていない。そのため、動作温度373K以下で、5.0mass%以上の水素吸蔵量を持つ新規な水素吸蔵合金の開発が必要とされている。
軽量金属を代表するMgは7.6mass%、Tiは4.1mass%の水素吸蔵能力があるが、動作温度が573K以上で高温を必要とする。従って、それぞれ単独では、燃料電池自動車の水素貯蔵源として利用する事は課題が多い。そこで、MgとTiから構成される合金や金属間化合物が作製できれば、高い水素吸蔵能力と低い動作温度を兼ね備えた、水素吸蔵合金の作製が可能ではないかと期待されていた。(これは、今まで例外なく、合金化することによって低温で作動する水素吸蔵材料が創られてきたからである。)しかしながら、従来からある溶解法等の合金作製法を用いてMgとTiからなる合金や金属間化合物を作製した報告は、今までの所、全くない。そこで、機械的合金作製法であるメカニカルアロイング法により合金作製を試みた。その結果、メカニカルアロイング条件(MgとTiの配合比、アロイング時間等)を最適化することで、Mg-Ti2元系合金が、BCC構造を持つ合金として作製可能である事を明らかにした。また、この合金が燃料電池自動車の要求特性を達成する可能性を示した。このBCC構造を持つMg系合金の特性を、同じくBCC構造を持つV系合金の特性から推定すると、金属原子1個当たり2個の水素原子を貯蔵する事が可能であることから、水素吸蔵量は5.0mass%以上、動作温度も373K以下が期待できる。
また、今迄、溶解法等で作製が困難とされてきた他のMgベース合金を、メカニカルアロイング法で作製する可能性も示唆され、水素吸蔵合金だけでなく摩耗材料等の構造材料に、新しいMg系合金の展開が期待できる。
今後、この合金の基本物性等を明らかにし、実用的な水素化特性を持つ合金開発を実施して行く予定である。さらに、耐摩耗特性等の機械的な特性も評価する事で、自動車部品等への適用も検討していく予定である。