独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ボリュームグラフィックス連携研究体【体長 村木 茂】は、三菱プレシジョン株式会社 【代表取締役社長 立光 武彦】(以下「MPC」という)と共同で、従来のPCクラスタシステムにリアルタイム映像生成機能を加えた「ボリュームグラフィックスクラスタ(以下「VGクラスタ」という)」を開発した。
昨今、数値流体シミュレーションや3次元医用画像処理などの大規模ボリュームデータの処理にPCクラスタを利用する例が増えてきているが、これまでは処理結果の大規模ボリュームデータを高速に可視化する手段がなかった。 この度、産総研とMPCは、PC用の高性能グラフィックスプロセッサ(GPU)の性能を並列化する「フレーム重畳装置」を開発し、大規模ボリュームデータの計算と可視化をリアルタイムで実行できるVGクラスタシステムの商品化に成功した。
この技術によって、大規模数値計算の計算経過を瞬時に視覚的にモニタリングすることが可能となり、数値流体シミュレーションや3次元医用画像処理の作業効率が飛躍的に向上すると期待される。
今後は、VGクラスタ技術を各分野へ適用するための共同開発をさらに進めていくとともに、MPCにおいては、VGクラスタシステム及び関連製品の販売を開始する。
本VGクラスタ試作品のデモンストレーションが、3月20日(水)に日本科学未来館(東京都江東区青海)で開催される第一回PCクラスタシンポジウム(企業展示)において行われる予定。
最近、PCクラスタと呼ばれる技術が世界的に注目されている。大量のパーソナルコンピュータ(PC)を超高速ネットワークで接続し、MPICH等のクラスタソフトウェアをインストールすることで、ベンチマーク性能でスーパーコンピュータを凌駕する並列計算機を、誰もが非常に低いコストで作れるようになった。ところが、こうした数値計算だけのPCクラスタ技術では、結果を把握するために別のワークステーションにデータを転送して可視化する必要があった。
各PCに装備されているグラフィックスプロセッサ(GPU)の能力を並列化して可視化処理に利用することができれば、PCクラスタ上で計算と可視化を同時に行うことが可能となり、処理効率は飛躍的に増大する。しかし、汎用のネットワークとPCの中央演算ユニット(CPU)を使った低速な並列化では、各GPUの性能を十分に引き出すことができなかった。
PCクラスタのユーザーは、大学、研究所、医療機関などの極端に高度な研究に携わる機関に限られるため、このような分野の問題をメーカーが単独で研究するには経済的なリスクが大きい。そこで、ボリュームグラフィックス技術を得意とする「産総研」と、各種シミュレーション装置及びそのリアルタイム映像発生装置を開発している「MPC」は、旧工業技術院での研究「実時間生体機能情報処理のためのビジュアルコンピューティング技術」や、産総研産学官連携部門の連携研究体制度などの研究予算を活用してこの問題の研究に取り組み、今回「ボリュームグラフィックス(VG)クラスタ」の開発に成功した。
グラフィックス処理の並列化には、画面を分割する方法と、対象物体を分割する方法の二通りがあるが、VGクラスタは新開発のフレーム重畳装置によって両者を混在して使用できる。フレーム重畳装置は、各PCのGPU出力を毎秒1ギガビット以上の速度で入力し、対象物の「色」と「不透明度」と「前後関係」を考慮しながら並列に合成して可視化映像を出力できるので、PCクラスタの数値計算性能と組み合わせれば、計算流体力学や生体機能解析などのリアルタイムシミュレーションに威力を発揮する。
画像生成のスピードは、対象とするデータの規模や画面サイズにより異なるが、VGクラスタシステムの高い拡張性により、画面分割と空間分割を問題サイズに応じて組み合わせることで、常にリアルタイム計算可視化システムを構成することができる。
今後は、VGクラスタ技術を各分野へ適用するための共同開発をさらに進めていくとともに、各サイトにあるVGクラスタを広域ネットワーク上で並列稼動させるシステムの開発や、バーチャルリアリティー等で用いられる多画面及び没入型のディスプレーに対応したシステムの開発を検討していく。
また、MPCにおいては、「VGクラスタシステム」又は「フレーム重畳装置のキット」を各大学、研究機関等へ販売していく。