独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) セラミックス研究部門 環境材料化学研究グループ【グループ長 垰田 博史(たおだ ひろし)】と愛知県農総試 経営環境部 農業土木研究室【室長 榊原 正典】、環境化学研究室【室長 加藤 保】は、汚水を迅速かつ簡単に処理できる水質浄化法を共同で開発した。農業集落排水等の汚水に鉄系酸化物複合酸化チタン光触媒を添加し撹拌するという簡単な操作により、汚水中のCODを従来の光触媒法に比べ1/24以下の1時間以内に農業用水質基準値の6mg/L以下に浄化することができた。処理水の分離は沈殿後の上澄み液を排出するのみで簡単である。今までの水質浄化方法に比べて格段に速く、処理水の分離も容易であることから、今後幅広い応用が期待される。
産総研 セラミックス研究部門 環境材料化学研究グループと愛知県農総試 経営環境部 農業土木研究室は1999年から光触媒を利用した農業集落排水の水質浄化について共同研究を行っていた。光触媒を用いると水中のほぼ全ての有機化学物質を二酸化炭素や水などの分解・無害化することができるが、水処理の際、水に縣濁物や有機物が多量に入っていると、光が光触媒に届きにくく、分解する量が多いため、時間がかかり、処理が困難であった。そして、通常、光触媒処理では表面積の大きな微粒子酸化チタン光触媒が使用されるが、その場合、酸化チタン光触媒が水中において沈殿せず、処理水と分離することが難しいという問題があった。そこで、鉄系酸化物複合酸化チタン光触媒(粒子径0.3µm)を開発し使用したところ、迅速な浄化と上澄み液を排出するのみの簡単な水質浄化処理が可能になった。
実験では、処理前の汚水中のCOD濃度を60mg/L程度に濃度調整した汚水500mLに対して、酸化チタンに鉄系酸化物を複合化した光触媒粒子を10g添加して、晴れた日の紫外線量に近いブラックライトによる紫外線量0.4mW/cm2 の光の照射下で45分間撹拌した後、15分間沈殿させた。その結果、上澄み液のCOD濃度は農業用水質基準値の6mg/L以下となり、従来の光触媒法に比べ1/24以下の非常に迅速で高効率の水質浄化処理が可能となった。この成果は従来不可能といわれていた高濃度排水の光触媒処理に道を開くもので画期的であり三菱総研の予測で2005年に3544億円市場に成長すると試算されている光触媒による水処理技術の実用化の進展が期待される。
今後さらに実験を進めて実用的な浄化システムを構築する。なお、この成果は平成14年2月6日につくば市の農業研究センターで開かれる平成13年度関東東海北陸農業試験研究推進会議「作業技術検討会」で発表する。
図1:酸化チタンの浄化能力
(酸化チタン単体5gの光触媒を用いた場合、CODを基準値以下にするのに24時間かかった。)
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図2:鉄系酸化物の浄化能力
(鉄系酸化物単体5gを用いた場合には、CODが半減程度にしかならなかった。))
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図3:鉄系酸化物複合酸化チタンの浄化能力
(鉄系酸化物複合酸化チタン10g(酸化チタン5g+鉄系酸化物5g)を用いた場合には、CODが短時間で基準値以下になった。)
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図4:撹拌時間効果
(撹拌時間が長いほどCODは下がるが、効果的処理時間は、撹拌時間45分、沈殿時間15分の計1時間であった。)
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