産総研が開発したDR圧縮は、圧縮対象である画像の特性に応じて適切に圧縮方式を切り替えることのできる符号化方式で、様々なタイプの画像において高い圧縮率を示し、標準画像を用いた場合の平均圧縮率は約30で、最大50以上(圧縮後の画像データサイズが圧縮前の1/50以下になること)に達する。本方式は可逆符号化(ロスレス符号化)を行っているため、圧縮した画像データを完全に元通り復元することが可能である。
また、従来法での高圧縮が困難とされていた印刷用画像の圧縮を得意とし、従来の国際標準であるJBIG方式の約2倍の圧縮率を達成した。
ロスレス符号化でこのような高い圧縮率をあげること自体が異例であることから、現在、現行標準の拡張方式として採用すべくISOにて審議が進んでいる。早ければ2002年度中に国際標準化される予定である。国産技術による国際標準化を推し進める上でも、本システムによるDR圧縮技術の普及を図ることは、戦略的に非常に重要な意義がある。
本システムがDR圧縮技術にとって初の商用化案件となるが、経済産業省からのベンチャー企業第一号である(株)進化システム総合研究所により、実用化される予定である。
一方、信州大学工学部の田中助教授は、暗号化と電子透かし方式の開発を行った。本暗号化方式は、カオス理論に基づいているために、非常に堅牢なセキュリティ機能を有する。本方式はDR圧縮と非常に相性のよい処理を行っているため、DR圧縮の処理速度や圧縮率を低下させることなく、暗号化可能である。上記電子透かし方式は、地図データ専用に開発されたもので、第三者からの様々な攻撃 (ノイズ付加、上書き、切り取りなど)に対して非常に強い耐性を有する。
また、信州大学工学部では世界初の印刷用画像に対する電子透かし方式も近く完成され、これも本システムに搭載される予定である。
このセキュリティ機能を組み込んだDR圧縮は、ジェックの電子ファイリングシステムである。あるDo!Cabiをベースに本システムとして実現された。
○ 本システムにより得られる主なメリットは下記の通りである。
(1) 測量地図データ保管および検索の効率化
一般に、土木・建設工事には大量の図面や地図などが必要とされ、工事終了後もそれらは紙メディアとして保管され、保管コストの増大、紙の劣化、紛失の恐れなど、深刻な問題となっている。そこで、従来は紙で保存していた測量図面などをDR圧縮によりコンパクトに電子化することで、上記の問題を解消するだけでなく、保存データの検索性を高め、有効に再利用することが可能となる。
(2) 電子納品時代への対応
現在、国土交通省が「建設CALS/EC」の普及を推進しており、2010年度までには全国の地方自治体においても、受発注者間でやりとりする図面や地図、写真、書類などを全て電子化すること義務付けられる。ところが、電子化された巨大な工事用図面の授受を行うためには、莫大な通信コストや膨大な記録メディアが必要となる。このとき、産総研が開発したDR圧縮を採用することで、各種データの授受を容易に行えるようになる(たとえば、DVD-RAMにしか収まらなかったデータをCD-Rに記録可能とし、データ通信時間を劇的に短縮するなど)。このように、電子納品時代にマッチした技術を提供することが可能となる。
(3) 著作権保護、改竄および不正二次利用の防止
地方自治体などが管理する測量地図データは公共性が高いため、許可された者以外の閲覧や編集を厳しく制限する必要がある。そこで、暗号化および電子透かしによる強力なセキュリティ機能を用いることで、常にデータの著作権の所在を明確にし、改竄や不正な二次使用を禁止することができる。
本システムは、経済産業省からのベンチャー企業第一号である(株)進化システム総合研究所、信州大学工学部ならびにジェックの三者からなる、産学官の連携により事業化される予定である。
なお、10月3日~5日 東京ファッションタウン(江東区有明)に於いて開催される「RWC2001最終成果展示発表会(主催: 技術研究組合 新情報処理開発機構)」にてシステムが公開され、デモンストレーションが行われる予定である。また、同発表会では、富士ゼロックスと共同でDR圧縮技術を用いたオンデマンド出版のデモンストレーションも併せて行われる予定である。