今回の受賞は、1964年の近藤 淳 名誉フェローの抵抗極小現象の解明と、それに続く傑出した研究が評価されたものです。
金属中では温度が低くなるほど伝導電子は流れやすく(電気抵抗は小さく)なるという一般原則に反し、純粋に近い金や銅などでは温度を下げていくとある温度以下で電気抵抗が増大する「電気抵抗の極小現象」が存在し、長年、低温物理学上の謎でありました。これに対して近藤名誉フェローは、1964年に弊所の前身である電子技術総合研究所において、金属中に微量に含まれる磁性原子の電子スピンによる伝導電子散乱が、低温領域では電気抵抗を温度の対数関数として上昇させることを発見し、温度が下がると共に減少する原子振動による散乱との和が電気抵抗に極小を出現させることを明らかにし、「電気抵抗の極小現象」を理論的に解明しました。その後、電気抵抗極小現象に関連した多くの異常特性が明らかになり、「近藤効果」と呼ばれています。
近藤効果の理論は、金属内に存在する多数の電子と、不純物として存在する局在スピンとの相互作用を扱うものであり、電気抵抗、磁性、超伝導などの物性を解明するための理論的基礎となっています。また、学術的に見て「量子多体問題」と呼ばれる分野に属し、同じ多体問題研究のフロンティアである素粒子物理学や理論化学等の固体物理学以外の研究分野にも大きなインパクトを与えています。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 名誉フェロー
東邦大学名誉教授
日本学士院会員
1963年4月 工業技術院電気試験所入所、1990年4月 工業技術院電子技術総合研究所顧問、2001年4月 産業技術総合研究所特別顧問、2013年4月 産業技術総合研究所名誉フェロー
Fritz London賞、Acta Metallurgica賞など海外の賞、仁科記念賞、日本学士院賞・恩賜賞、朝日賞、藤原賞、文化功労者顕彰など国内の賞を数多く受賞