産総研 - ニュース 受賞

2010/03/03

第6回日本学術振興会賞を受賞

 平成22年3月1日(月)に日本学士院において、第6回日本学術振興会賞の表彰式が行われ、当所のナノチューブ応用研究センター スーパーグロースCNTチーム 畠 賢治研究チーム長とエレクトロニクス研究部門 スピントロニクスグループ 湯浅 新治研究グループ長の2名が受賞しました。

 日本学術振興会賞は、優れた研究を進めている若手研究者を見い出し、早い段階から顕彰してその研究意欲を高め、独創的、先駆的な研究を支援することにより、我が国の学術研究の水準を世界のトップレベルにおいて発展させることを目的に、独立行政法人日本学術振興会が平成16年度に創設したものです。

受賞者写真

畠 賢治 研究チーム長

 ◆ 畠 賢治 研究チーム長
【受賞対象】 「カーボンナノチューブ合成の基礎と用途開発への応用に関する研究

【受賞理由】

 カーボンナノチューブとは、直径0.7~70nm(ナノメートル)で長さが数十μm(マイクロメートル)程度の円筒の形をした炭素の結晶であり、半導体の新素材として期待されている。畠賢治研究チーム長は、直径が数nmの単層カーボンナノチューブの合成機構についての徹底した解明を試み、その成果に基づき、微量の水分添加という簡便な方法で、スーパーグロース法と呼ばれる高純度・高効率での合成法を開発した。また、シリコンなどの基板上に林のように方向を揃えて合成できることを応用して、様々なパターンや形態・構造を実現した。さらに、この新素材を用いて、電気二重層キャパシター、アクチュエーターやフラットパネルディスプレーなどのデバイスに単層カーボンナノチューブを用いることで画期的な性能向上を実証した。

 このように、エレクトロニクスデバイスなどへの実用化にむけて数々の高機能デバイスの試作や評価を行ってきており、カーボンナノチューブの応用範囲を格段に広げる可能性を示した。また、サンプル供給を通じた国内外の研究機関との共同研究を進め、本分野の基礎および応用研究の発展に大きく寄与している。

 同研究チーム長の業績に基づき、カーボンナノチューブの工業的な量産と製品化の研究が進んでおり、今後、日本初のナノテク材料を中心とした、カーボンナノチューブ産業が立ち上がると期待される。



受賞者写真

湯浅 新治 研究グループ長

 ◆ 湯浅 新治 研究グループ長
【受賞対象】 「高性能磁気トンネル接合素子の開発と実用化

【受賞理由】

 湯浅新治研究グループ長は、強磁性金属/絶縁体/強磁性金属の薄膜3層構造を持つ磁気トンネル接合(MTJ)において、絶縁体として厚さ1nm(ナノメートル)オーダーの結晶化した酸化マグネシウム(MgO)を用いることで、コンピューターで用いられているハードディスクの記録密度を飛躍的に向上させるとともに、次世代大容量不揮発メモリの基盤を構築した。  同研究グループ長は、鉄薄膜上に結晶化MgOを成長させる技術を開発し、それによりMTJのトンネル磁気抵抗比(TMR:上下2つの強磁性体の磁化の向きが揃った場合と逆向きの場合のMTJの電気抵抗の違いの指標)が従来の3倍以上になることを見出した。また、鉄の代わりに鉄・コバルト・ホウ素合金を用いることで量産化を可能とし、TMRが更に増えることも見出した。これらの技術は、ハードディスクの磁気ヘッドとして、現在すべての大容量ハードディスクに採用されている。また、MTJは電源を切っても記憶が消えない不揮発という特徴を持っていることから、将来の大容量メモリとしても期待されているが、同氏の業績は、このメモリセルの小型化、すなわち大容量化へも大きな進展をもたらしている。

 

 同研究グループ長の業績は一言でいえばMTJの特性向上であるが、その飛躍的な前進はスピントロニクスという新しいエレクトロニクスの分野の発展に大きく貢献している。また、同研究グループ長の研究自身も、磁気ヘッドから大容量メモリ、さらには、マイクロ波発信素子の開発などへ広がりつつあり、今後の更なる発展が期待される。