国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】先進パワーエレクトロニクス研究センター【研究センター長 山口 浩】ウェハプロセスチーム 加藤 智久 研究チーム長らは、ウエハーメーカーを含む民間企業17社、公的機関3機関との連携で、次世代パワー半導体用炭化ケイ素(SiC)ウエハーの新しい量産技術の確立を目指した大型共同研究を開始し、SiCインゴットを作るバルク単結晶成長プロセスからウエハー化する加工プロセスに至るまで低コスト化を実現する本格的な製造技術の開発を進めています。
パワー半導体素子は大きな電力を制御する発電・送電システムや、産業用ロボットなどのFA機器、自動車や鉄道などの輸送機器、コンピューターなどの情報通信機器や家電製品に至るまで、幅広く産業・社会に浸透しています。これまではシリコン(Si)製のパワー半導体を使ったものが主流でしたが、今後の低炭素社会実現のためにはよりエネルギー損失の少ないSiC製のパワー半導体素子が期待されており、新幹線や電気自動車などへの社会実装も始まっています。一方、SiCは古くから堅牢な構造材や耐火材、研磨材としても知られているように、極めて堅く安定な材料であるため、パワー半導体用の単結晶成長やそのウエハー加工に多くの時間とコストがかかってしまう課題も残っています。本共同研究ではSiCパワー半導体の今後のさらなる普及促進と産業競争力強化のため、これらの課題を解決する新しい量産技術の確立を目指していきます。
これらの技術開発の活動の場として、民活型オープンイノベーション共同研究体つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション(TPEC:Tsukuba Power-Electronics Constellations)内に材料分科会を新設し、柔軟な産学官連携(体制)のもとで“次世代SiC結晶成長技術開発”プロジェクトや“次世代ウエハー加工技術開発”プロジェクトを主なテーマとして推進しています。
次世代パワエレ用SiCウエハー製造技術開発共同研究の構成
- 「次世代SiC結晶成長技術開発」プロジェクト
SiC単結晶は2000℃以上の極高温の気相雰囲気で成長させますが、成長速度が1時間当たり500μm~数mmと遅く、シリコン単結晶成長と比べ100分の1以下と製造能率が悪いことが問題となっています。またパワー半導体として致命的な結晶欠陥も未だ多く残留しており、生産効率の良い欠陥排斥技術も未確立です。直径6インチクラスの大口径SiCウエハーの需要が世界的に高まる中、より高品質なSiC単結晶を高速に成長させる技術の早期確立を目指します。
- 「次世代ウエハー加工技術開発」プロジェクト
極めて堅いSiC単結晶をウエハーに加工するには、単結晶の切断から研磨までの多くの工程でダイヤモンド砥粒を消費している現状があります。また加工時間もシリコンウエハーにくらべ6倍以上かかっていることから、ウエハー加工プロセスの高速化とダイヤモンド砥材の省消費化を実現する新しい加工技術の確立を目指しています。
また、本共同研究では、SiCの結晶成長技術からウエハー加工技術に関わる材料、装置、プロセスの各専門企業が多数連携することで、従来の製造技術の抜本的な技術改革を早期に進められる体制作りを行っています(図1参照)。また、新規の参入を希望する企業や、研究機関を随時募集しています。
図1 本共同研究の連携開発コンセプト