国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という。)は、2018年12月27日に新たな研究施設である「サイバーフィジカルシステム研究棟」(東京都江東区青海2-4-7 産総研 臨海副都心センター内)を構築しました。
「サイバーフィジカルシステム研究棟」では、AI技術およびロボット技術が融合し、さまざまな機械が人と協調し、人を支援する「人・機械協調AI研究」を推進します。具体的には、生産分野、物流分野、創薬分野における模擬環境(ショーケース)を整備し、その模擬環境内における機械(加工機、ロボットなど)のみならず、作業者まで含めたサイバーフィジカルシステムを構築します。これにより、環境情報、作業情報をデータ化し、AI技術で処理することで、より効率的に生産性向上を図ります。
今後は、産総研 人工知能研究センター【研究センター長 辻井 潤一、副研究センター長(人・機械協調AI研究担当) 谷川 民生】の三つの研究チームが中心となり、民間企業と共に共同研究コンソーシアムを構築し、「サイバーフィジカルシステム研究棟」を産学官一体の研究拠点とすることで、AI技術の社会実装の加速化を目指します。
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サイバーフィジカルシステム研究棟における「人・機械協調AI研究」の推進体制 |
2016年8月2日付で閣議決定された「未来への投資を実現する経済対策」において、IoT、人工知能などの技術の進展が求められたことを背景として、人工知能に関する研究拠点を整備し、社会実装を推進することとされ、2016年度第2次補正予算「人工知能に関するグローバル研究拠点整備事業」を産総研で実施することとなりました。同事業の実施のため、産総研は、柏センターの設立(2018年10月25日発表 産総研プレスリリース)および同センター内の研究拠点の整備と同時に、臨海副都心センター内の研究拠点の整備を進めてきました。
実環境にAI技術を適用していく上で、実環境の状態を、さまざまなIoT技術からデータ化し、AIの学習データとして利用する必要があります。一方、対象とする実環境によって必要な学習データは異なるため、実環境でのAI技術の適用対象は何か、適用するためにはどのようなデータを取得すべきか、適用するための最適なIoT技術は何か、といった研究を可能とする模擬環境が必要とされます。そこで、サイバーフィジカルシステム研究棟には、以下の4種類の模擬環境を整備し、その中で働く人に対して、AI技術やロボットがどのように人を支援し、生産性向上が図られるかについて研究活動を行います。
①【機械加工組立工場】
切削加工機、レーザー加工機などの各種加工設備およびロボットなどの組み立て設備を有する、機械加工・組み立てを中心とする模擬工場
②【小規模半導体製造工場】
小型化かつ規格化された半導体製造装置群からなる小規模製造工場(ミニマルファブ)
③【小規模店舗】
コンビニエンスストアを模擬した小型模擬店舗
④【バイオ研究】
創薬実験環境を模擬したバイオラボ
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サイバーフィジカルシステム研究棟 |
2018年12月27日にサイバーフィジカルシステム研究棟は完工しました。順次研究設備などの導入を行い研究環境の整備を進め、一部研究を開始しています。2019年4月から本格的な研究活動や連携活動を実施します。
今後、わが国は高齢化社会を迎え、労働生産人口が低下し、その影響が懸念されています。こういった課題に対し、1人当たりの生産性を向上する技術や、障がい者ないしは高齢であろうとも働きたい方が負担を少なく働けるための代行支援をする技術を、AI技術やロボット技術で実現する「人・機械協調AI研究」を推進しています。
AIが学習するためには、作業環境内のデータが必要です。このデータには、機械自身のデータだけでなく、支援対象である作業者のデータも含まれます。すなわち、人が作業する実際の環境(フィジカル空間)における機械および作業者の情報をデータ化し、コンピューター上にあるサイバー空間で表現する「サイバーフィジカルシステム」を構築することで、初めてAIの学習が可能となります。これによって、AIは人の作業を解析し、ロボットなどの機械を通じて、適切に人を支援することが可能となります。サイバーフィジカルシステム研究棟には、その典型事例である、生産、物流、創薬の各分野の模擬環境を整備し、それらの「サイバーフィジカルシステム」を構築することで「人・機械協調AI研究」を加速します。
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サイバーフィジカルシステム研究棟における模擬環境 |