独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)と、ドイツのフラウンホーファー研究機構【理事長 ライムント ノイゲバウアー】(以下「フラウンホーファー」という)は、電気活性高分子(以下「EAP」という)デバイスの実用化開発を目的とした共同研究ラボラトリー「Fraunhofer Project Center for Electroactive Polymers at AIST Kansai」(以下「FPC」という)を産総研関西センター内に設立する。
FPCの運営は、産総研側は健康工学研究部門【研究部門長 吉田 康一】人工細胞研究グループ【研究グループ長 安積 欣志】が中心となって進め、フラウンホーファー側は生産技術・オートメーション研究所【所長トーマス バウアーンハンズル】(以下「フラウンホーファーIPA」という)機能性材料部門【部門長 イヴィツァ コラリッチ】が中心となって進める。
健康工学研究部門とフラウンホーファーIPAの間で、EAPの開発に関する共同研究契約を締結し、産総研が開発したナノカーボン高分子アクチュエーターを中心に、EAPデバイスの実用化を目指した共同研究を3年間の計画で進める。
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共同研究ラボラトリー |
健康工学研究部門は、医療福祉機器(リハビリロボット、医療用無音ポンプなど)の開発を目指してEAPアクチュエーターの研究開発を進めており、最近のEAPアクチュエーターの一つであるナノカーボン高分子アクチュエーターの開発において、素子、材料レベルでは世界でもトップクラスの研究機関として知られている。しかし、その実用化のためには、システム化・量産化の技術が必要である。
2012年7月6日の産総研とフラウンホーファーとの包括研究協力覚書締結を契機として、健康工学研究部門は量産化・システム化技術に強みをもち、EAPアクチュエーターの応用に取り組んでいたフラウンホーファーIPAと共同研究を開始した。それが発展して今回のFPCの開設に至った。
FPCでは、産総研で開発したナノカーボン高分子アクチュエーター(図1)の実用化開発を進める。そのために以下の研究開発を3年間の計画で行う。また、フラウンホーファーからの研究者がFPCに常駐するとともに、産総研からも研究者をフラウンホーファーIPAへ派遣し共同開発を進める。さらに、国内関連企業数社がアドバイザリーボードとして参画し、将来の共同研究などを想定して本共同研究への助言を行う。
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新しいEAPアクチュエーター材料の開発
産総研で開発したナノカーボン高分子アクチュエーターの研究開発をベースに、新しいEAPアクチュエーター材料の開発を進める。
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デバイスプロトタイプの開発
すでに、フラウンホーファーIPAとのこれまでの共同研究により、ナノカーボン高分子アクチュエーターを用いたオートミニピペットのプロトタイプを開発した(図2)。今回の研究開発では、このプロトタイプを高性能化、あるいは、これを利用した医療用無音ミニポンプなどの新しいデバイスプロトタイプを開発し、関連企業へのデモを行う。
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EAPアクチュエーターの量産化の技術開発
1.で開発したEAPアクチュエーターの実用化を進めるために、EAPアクチュエーターの量産化に必要な技術開発を行う。
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図1 ナノカーボン高分子アクチュエーター |
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図2 ナノカーボン高分子アクチュエーターを用いたオートミニピペット |
3年計画の共同研究の後、日本国内の関連企業へ開発したEAP技術を移転し事業化を進める。
フラウンホーファーの概要
フラウンホーファーは、実用化のための研究を担う研究機関として、1949年に設立された。2014 年時点の職員総数は約23000名(うち大部分が科学者およびエンジニア)、年間予算は20億 ユーロ超。ドイツ各地に67の研究所を擁するほか、世界各地に研究センターや代表部を持つ。ドイツ連邦共和国には研究機関として、基礎科学を行うマックス・プランク協会、基礎科学から応用研究への橋渡し・大型研究施設を擁するヘルムホルツ協会、ライプニッツ学術連合があるが、フラウンホーファーは最も実用化に近い応用研究を行っている。このため、企業などからの委託研究、企業への技術サービスの提供などが特徴である。研究分野は大変幅広く、健康・栄養・環境、安全・セキュリティ、情報・コミュニケーション、輸送・モビリティ、エネルギー・暮らし、資源効率の高い生産の各分野で社会のニーズに応える技術の開発が推進されている。