国際度量衡局【局長 マーティン ・ミルトン】(以下「BIPM」という)と独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)は、核磁気共鳴を利用した有機化合物の定量分析法(以下「定量NMR法」という)の普及と主たる純度評価手法への発展を目的として、両者の研究協力に関する協定を平成26年6月9日に締結した。
本協定に基づく研究開発により、産総研が主導的な立場で開発した定量NMR法が国際計量標準分野で普及し有機標準分野での国際比較や計量標準整備の飛躍的な進展が期待される。これにより、食品・医薬・環境など幅広い分野における品質管理精度の大幅な向上が見込まれ、世界規模での社会の安全安心の確保と人々の生活の質の向上に貢献できる。
我々の日常生活の安全・安心は、さまざまな分野での品質管理に支えられている。たとえば、食品、農林水産物、工業製品、医薬品、医療、環境などの分野で多くの化学分析機器が品質管理に活用されているが、正確な分析のためには目盛り付けが重要である。この目盛り付けの計量標準としては標準物質を用いることが多いが、有機化合物の種類は膨大であり(農薬だけでも800種類以上)すべてに対して一つずつ標準物質を整備する(すなわち、精確な目盛り付けを行う)ことは現実には極めて困難である。近年の急増する多様なニーズに計量標準の整備が追いつかない状況が、世界共通の課題となっていた。
産総研が開発し提案する定量NMR法は有機化合物中に普遍的に存在する水素原子の数に依存する信号強度を精密に分析することによって、多様な有機化合物の物質量が精度よく求められることを実証したものであり、有機分析分野の課題を解決する革新的な技術となりうる。産総研はBIPMと共同で、定量NMR法の適用性の拡張とさらなる高精度化を行い、有機化合物の高精度な計量標準の整備を迅速に行い、効率的な計量トレーサビリティ体系(図1)の確立を目指す。
メートル条約のもとに設立されたBIPMは、計量標準の国際的同等性の確保とその推進をミッションとする政府間組織である。BIPMのミルトン局長は平成25年7月に産総研を訪問し、産総研の中鉢理事長、三木理事らと会談し、定量NMR法に関する両機関の協力関係について意見交換を行った。その後、両機関は熟議を重ね研究協力覚書の内容を確定し、本日の締結に至ったものである。
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図1 有機化合物標準のトレーサビリティ体系の比較 |
協定に基づく連携・協力事項として、以下の取り組みを行う。
BIMPにおける定量NMR法の立ち上げに必要な分析装置を選定する。定量NMR法で使用される内標準物質を選定しその適性評価を行う。定量NMR法の普及と発展のために、世界で共通利用が可能なプロトコルを確立する。有機化合物の純度測定に関する国際比較を実施し、世界各国の計量機関における定量NMR法の測定精度を向上させ、有機化合物の主たる純度評価法として発展させる。
連携・協力活動の一環として、6月9日からBIPMの研究者2名が産総研に来所し、共同研究活動を開始した。