独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)は、メタンハイドレート資源から天然ガスを商業生産するために必要な技術の研究開発を進めるため、メタンハイドレート研究センター【研究センター長 成田 英夫】(以下「本研究センター」という)を平成21年4月1日に設立しました。
メタンハイドレートは、メタンと水からなる包接水和物であり、その体積の約160倍のメタンガスを含むことから、新たな天然ガス資源として期待されています。メタンハイドレート資源は、世界の大陸縁辺部の海底下や永久凍土層の下に、高圧・低温条件下に存在しています。わが国の排他的経済水域(EEZ)内においても、多量の存在が確認あるいは推定されており、その原始資源量はわが国の現在の天然ガス年間消費量の数十年分に相当するとされています。
本研究センターは、このメタンハイドレート資源から安全で経済的に天然ガスを生産する技術の開発に取り組み、CO2排出量の少ないエネルギーの安定供給の確保と新たなエネルギー産業の創出に貢献することを目標としています。また、これにかかわる分野の研究者・技術者は絶対的に不足しており、開発した技術を遅滞なく商業化するためにも、企業の研究者・技術者などに対する技術移転や人材育成を進めていきます。このように、わが国のエネルギー供給の多様化とその長期的な安定供給確保に大きく貢献することを目指します。
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人工メタンハイドレートの燃焼
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現在、世界的な燃料低炭素化の潮流の中、天然ガスは石油や石炭に比べて燃焼時のCO2排出量の少ない化石燃料であるため、世界的に消費が増加しています。わが国においても、1970年代のいわゆる石油危機を契機に代替燃料として導入して以降直線的に消費が増加しています。2008年には約7千万トンの液化天然ガス(LNG)が輸入されており、その輸入額は4.6兆円を超えています。このような需給情勢の中、今年から液化天然ガス長期契約の更新時期を迎えるわが国にとっても、その長期的な安定供給確保のための取り組みは喫緊の課題です。
世界各国では、将来の天然ガス需要増加への対応に向けて在来型ガス田の開発促進のみならず非在来型と呼ばれる天然ガス資源の開発が進んでいます(図1)。メタンハイドレートは、新たな非在来型天然ガス資源として期待されており、世界的にも、米国、インド、韓国、中国などにおいて、その商業生産に向けた国家プロジェクトが推進されています。
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図1.メタンハイドレート資源からの天然ガス生産
(在来型天然ガス資源(左)との比較、水深等の数値は1例)
(写真提供:日本海洋掘削株式会社)
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経済産業省では天然ガスの長期的な安定供給を確保するために、平成14年にわが国周辺海域に存在するメタンハイドレート資源について(図2)、商業生産のための技術整備を目標とした「メタンハイドレート開発促進事業」を開始しました。本事業の実施にあたって、産総研は、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、(財)エンジニアリング振興協会(ENAA)と共にメタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21研究コンソーシアム)を設立し、それぞれ生産手法開発、資源量評価、環境影響評価の各研究開発分野を分担し、連携しながら取り組んできました(図3)。
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図2.日本周辺海域のBSR分布と東部南海トラフ海域の原始資源量
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なお、メタンハイドレート資源の開発については、「新・国家エネルギー戦略(2006.5)」において具体的取り組みとしているほか、「海洋基本計画(2008.3)」において、将来のエネルギー安全保障上重要かつ有望な国産エネルギーとなりうると位置付け、今後10年程度をめどとした商業化を目標に国が先導的役割を担うこととしています。
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図3.東部南海トラフのメタンハイドレート層から採取した天然試料(左)と微小領域のX線CTスキャン像(右)
緑:メタンハイドレート、赤:氷、青:メタンガス、灰色:砂
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本研究センターの前身であるメタンハイドレート研究ラボは、当初から経済産業省「メタンハイドレート開発促進事業」の実施者として携わり、これまでメタンハイドレート資源の存在する原位置条件での物性・分解特性試験技術の確立と天然試料の物性評価、生産シミュレーターの開発などを通じ、エネルギー効率の高い生産手法として減圧法を開発しました。減圧法は、MH21研究コンソーシアムが2008年3月にカナダ・マッケンジーデルタ地域において実施した陸上産出試験によって実証され、その結果を受け、経済産業省では、2009年度から7年計画で本事業の第2フェーズに進むこととしました。第2フェーズでは、予定されているわが国周辺海域での海洋産出試験などを通じ、生産性や回収率の向上や安定な生産性を維持するための研究開発を実施します。
本研究センターは、総合的な実験設備を有する産総研北海道センターと外部機関との連携が容易なつくばセンター西事業所で研究開発を行います。
取り組む研究課題は、メタンハイドレート資源からの天然ガス生産技術であり、最終的には、「安定かつ大量の天然ガス生産技術」、「信頼性の高い生産性・生産挙動予測技術」などの技術整備を行います。
また、産業界、大学および海外など主要研究機関からなる「メタンハイドレート研究アライアンス」を組織し、企業の研究者・技術者などに対する技術移転と人材育成を行うと共に、データベースの構築と発信、国際集会の開催などによってメタンハイドレート研究分野の中核的拠点としての役割を果たしていきます。
● 具体的課題:
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生産技術の開発
(1)高度生産手法の開発(安定・大量生産の実現)
(2)長期安全生産技術の開発 (生産に伴う地層挙動の長期的な評価)
(3)生産性予測技術の開発(実用化レベルの生産シミュレーターの開発)
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中核的役割の発揮
(4)技術移転・人材育成等のための中核的活動
2012年に実施予定のわが国周辺海域における海洋産出試験に向けた生産技術に関する研究開発を進めると共に、連携のための組織である「メタンハイドレート研究アライアンス」を設立して、企業・大学に対する人材育成、技術移転、全国の小中高校を対象とした出張講義、データベースの構築と公開などに取り組みます。