独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、高精細映像情報などの巨大情報を超低消費電力で送受信できる、新しい光パスネットワークを目指し、これに必要な、デバイス、光信号処理技術などの研究開発を進めるため、ネットワークフォトニクス研究センター【研究センター長 石川 浩】(「以下「本研究センター」という)を平成20年10月1日に設立しました。
現在、インターネットの通信トラフィックは年率40%で増加しており、この情報量を処理するためのネットワーク機器の消費電力が問題となってきています。情報量が巨大な高精細映像情報などを活用した高度情報化技術の恩恵をうけるためには、現状より数桁低い消費電力で、巨大情報を処理できるネットワークが必要です。産総研では、研究部署間の連携に加えて外部企業との連携により、低消費電力で巨大な情報を扱うことを目指した光パスネットワークを目指した研究を開始します。
本研究センターは、これらの研究の中核として、光パスネットワーク構築に必要となる、デバイス、光信号処理技術などを中心に研究開発を行い、超低エネルギーネットワーク実現に貢献していきます。
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将来の光ネットワークのイメージ図
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近年のブロードバンドの普及で、情報通信量が急激に増大しています。この背景には、情報量の多い映像情報の需要が増えていることが挙げられます。今後、放送と通信の融合、ネットワークを利用したハイビジョンやスーパーハイビジョンなどの映像情報の配信などを想定すると、ますます映像情報は増えていきます。国内の通信トラフィックはこの数年、年率40%で増加しています。単純に情報量に比例して消費電力が増え続けるとすれば、2020年ごろには、ルーターの消費電力が国内の総発電量に近づくことになります。(図1)このことは、近い将来、電力消費の限界から、われわれがネットワークを十分に活用できず、不十分なネットワークで我慢しなければならないことを意味しています。
現在のネットワークはIPパケット処理による方式です。この方式は、メール、Web閲覧などの比較的粒度の小さい情報を扱うのに適しており、今日のネットワーク社会を生み出し、今後もさらに発展していくものと思われます。しかし、情報を小さなサイズのパケットに分割して電子的に処理する方式は、情報量が巨大な(粒度が大きい)高精細映像などには極めて非能率で、ルーター消費電力の増大の要因となっています。
電力消費を増大させることなく、現在より一層高度な情報通信サービスを提供できる情報通信基盤を作ることが、今求められています。
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図1 通信トラフィックとルーターの消費電力
赤丸は総務省発表の通信トラフィック、黒丸はルーターの消費電力(経済産業省資料から) |
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ルーターの消費電力を削減するために、産総研は、電話交換回線網に類似したユーザーとユーザーを光パスでつなぐ光パスネットワークが最も有望であると考え、検討を進めてきました。光パスネットワークでは、直接ユーザー間をつなぐため、情報量あたりの消費電力を下げることが期待されます。
新設される本研究センターの前身である「超高速光信号処理デバイス研究ラボ」では、ネットワークを利用した映像情報時代に備えて、スーパーハイビジョンなどの巨大映像情報を実時間で伝送する超高速光LANを目指して、超高速全光デバイスや光信号処理技術の研究開発を行ってきました(2007年8月31日 プレス発表)。この研究は、現在、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の「次世代高効率ネットワークデバイス技術」プロジェクトで推進しています。超高速光LANは、光スイッチによりルートを切り替え、パスをつなぐ方式を採用しており、小規模光パスネットワークと考えることができます。
平成20年度には、本格的な光パスネットワークを目指して、科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」プログラムにおいて、「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」(以下「技術拠点」という)がプログラム課題として採択されました。技術拠点は、光パスネットワークにより、情報量あたりの消費電力を現状のIPネットワークに比べて、3-4桁下げることを目指しています。技術拠点では、産総研において、デバイス開発や光パスの伝送特性制御などの光信号処理の研究を行う「本研究センター」、ネットワーク管理技術の研究を行う「情報技術研究部門」、材料基盤の研究を行う「光技術研究部門」が技術的に垂直連携し、さらに、それぞれの技術領域において協働企業の参画を得て研究開発を行います。また、技術拠点では、材料デバイス技術からネットワークのアプリケーションまでを俯瞰(ふかん)できる人材の育成を行うことも大きな目標としています。本研究センターは、このような技術拠点の活動の中核として、光パスネットワークに向けた、デバイス・光信号処理技術の研究開発を進めていきます。
本研究センターでは、高精細映像情報などの巨大情報を超低消費電力で送受信できるネットワークの構築を目的として、方法論として光パスネットワークという技術を選択し、これに必要な、デバイス、光信号処理技術などの研究開発を進めていきます。
光パスネットワークは、電話交換回線網に類似したユーザーとユーザーを光パスでつなぐ技術です。光パスネットワークでは、細かい電子的なパケット処理を行わず、低消費電力の光スイッチで直接ユーザー間をつなぐため、情報量あたりの消費電力を現在の電気ルーターに比べ3-4桁下げることが期待されます。粒度の小さな情報に適した現状のIPネットワークと、巨大情報を扱う光パスネットワークを融合させることで、全体として、低消費電力で、高度の情報サービスが可能なネットワークを構築できます。
本研究センターでは、引き続き、「次世代高効率ネットワークデバイス技術」プロジェクトで、スーパーハイビジョンなどの超高精細映像を実時間伝送できる160Gbpsの超高速LANを目指して、超高速光デバイス、ハイブリッド集積技術、LANシステム化技術などの研究開発を推進します。長期的には、これをさらに発展させ、広域の超高速ネットワーク技術の確立を目指します。
「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」の研究では、シリコンフォトニクスを用いた小型低消費電力の光パス切り替えスイッチ、伝送路の分散を自律的に制御する光信号処理技術を中心に研究開発を行います。また、技術拠点の垂直連携活動として、光パスネットワークのアーキテクチャーの研究を分担します。産総研内の研究部署間の連携と協働企業との連携をベースに、内外の研究機関とも連携して、技術拠点の中核として技術拠点活動、研究開発活動を進めていきます。
以上のような取り組みにより、ネットワークの有効活用による社会・経済活動の省エネルギー化が達成できることになります。さらに、エネルギー需要を増大させることなく、高臨場感のテレビ会議や、遠隔同居、遠隔医療、巨大な情報を活用する生産・経済活動など、広い分野での高度の情報サービスを享受することが期待できます。
光パスネットワークに向けたデバイス、光信号処理技術の研究開発を進め、光ネットワーク超低エネルギー化技術の確立を目指して研究開発を進めていきます。平成26年度までに、情報量あたり3-4桁消費エネルギーの少ない光パスネットワークの基盤技術の確立を目指します。この分野における研究開発のイノベーションハブとしての機能を果たして、将来の超低エネルギーネットワーク実現に貢献していきます。
「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」の発足、およびその研究の中核となる本研究センターの設立を記念したシンポジウムを10月22日(13時15分から)、東京日本橋のベルサール八重洲で開催いたします。このシンポジウムでは、拠点活動の紹介に加えて、関連する分野の指導的立場の方々による講演を予定しています。