独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、産総研内のポスドクなどの若手研究者(産総研特別研究員)を対象として、特定の専門分野について科学的・技術的な知見を有しつつ、より広い視野を持ち、異なる分野の専門家と協力するコミュニケーション能力や協調性を有する人材の輩出を目指す「産総研イノベーションスクール」を平成20年7月31日から開講する。
「産総研イノベーションスクール」では、多くの研究者を率いて本格研究を実施している研究ユニット長による講義、本格研究実践のためのツールを用いた研修、キャリアカウンセリング、産総研の人材育成に協力いただける企業との間で行われる実践的なOn The Job Training (OJT)などの産総研として特徴のあるカリキュラムを通じて、企業等で即戦力として活躍できる人材を輩出させ、社会的なニーズと有用な人材のミスマッチを解消していくことに寄与していく。
公的研究機関(研究型独法や大学等)で研究開発の担い手として活躍し、今後産業界を含めた日本の科学技術開発の中核を担う若手研究者(ポスドク)が、就職、特に常勤職(パーマネントポジション)の獲得において困難な状況に置かれている。
安心・安全な社会基盤の構築、地球環境の保全などの問題解決を図り、持続発展可能な社会を実現していくためには、高度な専門性を有するポスドクなど若手人材の適材適所での活躍が不可欠であり、社会的なニーズと有用な人材のミスマッチを解消していくことが緊急の課題の一つと認識されている。
イノベーション創出への貢献をミッションの一つとする産総研では、このような状況に対してさまざまな形での産業技術人材育成の取り組みを行ってきた。例えば、つくば地区のポスドクを対象とした多様なキャリアパス支援を目指した多様化促進事業(文部科学省委託事業)、産総研が雇用したポスドクを企業との共同研究プロジェクトに従事させることにより、企業において即戦力となる産業技術人材を育成するプログラム等である。
今年度はさらに、「持続的発展可能な社会の実現に貢献できる高度な若手研究人材」の育成、特に企業の研究現場の体験を通じて広い視野を持ち、企業・大学・公的研究機関等の多様な分野で活躍できる人材の育成を目指し、「産総研イノベーションスクール」を開講することとなった。
日本最大規模の研究陣容を擁し、さまざまな分野において産業界と強いかかわりを持ちながら、出口イメージを意識した「本格研究」を実施している産総研においては、日々の研究活動において自然な形で異分野間の交流・融合ができ、広い視野を有した人材育成が可能である。
「産総研イノベーションスクール」は7月31日に開講し、本年度は10名程度を対象に人材を育成する。
受講者は次に示すカリキュラムでの研修を通じ、特定の専門分野についての高度な知見を獲得していくと同時に、より広い視野を持ち、異なる分野の専門家と協力するコミュニケーション能力や協調性を有する人材として育成される。
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研究ユニット長による講義と演習:
基礎研究から製品化研究まで幅広いスペクトルを特徴とする本格研究を、多くの研究者を率いて実践している産総研の研究ユニット長が、技術動向、研究最前線、研究開発成果の社会還元、研究マネージメント等の多様な視点からの実践的な講義内容を提供する。
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企業On The Job Training (OJT):
「パートナー企業」の協力により、企業の研究開発現場において数ヶ月以上の期間、研究開発の経験を積む。これにより得られる、自らの技術の向上や企業での現場体験により、より広いキャリアパスイメージを獲得する。
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本格研究実践ツールの研修:
技術経営、イノベーション論、起業法、特許、研究マネージメント、プレゼンテーション、コミュニケーションなど本格研究実践のために必要なツールの研修を実施する。
ここで、カリキュラムに協力いただく「パートナー企業」とは、すでに産総研と多くの共同研究の実績がある企業の中で、産総研の人材育成の考え方に賛同をいただいた企業である。企業OJTコースでは、パートナー企業の協力により、数ヶ月以上の研修を想定している。受講者の専門分野と企業ニーズとのマッチングを図ることにより研修をより有意義なものにする。このように、本格研究を実践している研究機関として、また企業との連携について多くの実績を持つ研究機関として、産総研独自の特徴あるカリキュラムを実施する。
カリキュラム改善のための意見をいただくなど、企業が求める人材を育成していくためにも、パートナー企業との関係は重要である。今後は、産総研の人材育成に賛同いただくパートナー企業を広げていく努力を継続して行いたい。同時に他の公的研究機関等とも連携をとりながら「産総研イノベーションスクール」の取り組みを発展させていきたい。