独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、関西センターにおいてソフトウェア信頼性技術の中核施設を整備して、先端研究、技術移転および技術者養成活動を加速することとした。
近年、組込みシステムの需要が急拡大したため、その不具合が発生すると影響が大きく、信頼性向上が重要かつ緊急の課題である。産総研では、関西センターに設置したシステム検証研究センターにおいて数理的技法(形式手法)を中心にシステム検証技術の研究活動を展開してきたが、更にその活動を広げるためにこの中核施設を整備することとなった。
具体的には、組込みシステム検証試験施設を設け、利用を産業界および学界に開放して、検証技術の先端研究、技術移転の産学官連携活動を開始する。また、組込みソフト産業推進会議【会長 宮原 秀夫】と共同で組込みソフトウェア高度技術者養成のための「組込み適塾」【塾長 今瀬 真】を開講し、日本全国で10万名不足していると言われる組込みソフトウェア技術者の養成に取り組む。
電子機器等の付加価値を決める組込みシステムは、我が国経済社会システムのあらゆる分野に導入され、携帯端末、情報家電、自動車、医療機器などあらゆる製品の価値を決める重要な要素となっている。こうした情報化が進展した社会にあっては、組込みシステムが高い信頼性をもって機能することが、安心・安全な社会実現のために不可欠である。
マイコン(マイクロコンピュータ)が高性能化したことから、この組込みソフトウェアの大規模化、複雑化が進み、現在、特に、品質の維持が困難となっている。昨今、携帯電話のソフトウェア不具合、航空機予約システムの故障、自動車のソフトウェア不具合に起因したリコールなどが起きている。昨年10月中旬に発生した駅の自動改札機のトラブルは260万人以上を巻き込む事態となるなど、交通システムに関係するシステム障害が連続し、組込みシステムの信頼性への不安が急速に高まってきた。特に駅の自動改札機のトラブルは、我が国経済社会に大きな打撃を与え、信頼性確保の為の早急の対策が求められるに至った。
これらのトラブルを受け、信頼性の高い組込みソフトウェアの開発や、それを支える人材の育成を目的として、昨年度から産業界を中心に、大学界を巻き込んで、協議会を設立する動きが活発化し始めた。
産総研システム検証研究センター(大阪府豊中市(千里中央))は、平成16年4月の設置以来、組込みシステムをはじめとする情報処理システムの検証に関する研究を遂行しており、企業との共同研究の経験を持つ研究者と検証事例を多数保有している。セミナー、シンポジウムを定期的に開催するほか、我が国の検証技術研究に先導的役割を果たしてきた。
また、平成19年8月には、関西を組込みソフト産業の一大集積地とすることを目的として、組込みソフト産業推進会議が設立された。同会議は、関西経済連合会に事務局をおき、NTT西日本、ダイキン工業、シャープ、松下電器産業のほかソフト会社、大阪大学をはじめ諸大学、産総研などの産学官各組織からの参加を得て、組込みソフトウェアの技術者養成を中心に活発に活動している。
以上のことから、経済産業省は、公的な検証試験施設を産総研関西センターに設けることとし、平成19年度の補正予算事業によって、組込みシステム検証試験施設の整備を行なっている。
(1)組込みシステム検証試験施設においては、クラスターコンピュータを導入してエミュレーションやモデル検査などの高度なツールや検証技術を提供する。利用に関する産学からの要望を取り入れ、円滑な運用をはかるために利用者のボードを設置する。
(2)産総研が、大学をはじめとする研究機関と共同で施設を利用して行なう応用研究、実用化研究を、施設運用面から支援する。
(3)組込みソフト産業推進会議と共同で「組込み適塾」を開講するほか、システム検証研究センターが研究開発した検証技術研修コースを実施、高度情報処理技術者養成に取り組む。
産総研システム検証研究センターは、現在、システム検証の数理的技法を研究する日本最大規模の研究組織であり、産業界との共同研究の経験を持つ研究者と検証事例を多数保有している。今後、同研究センターでの研究成果を活用した技術移転をすすめ、共同研究と人材養成によって、検証技術を中心とするソフトウェア信頼性先端技術を関西に集積して、日本の産業競争力強化に貢献する。