独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、バイオ研究における情報科学及び実験科学の手法を統合的に活用する技術開発を行い、創薬支援や重要な生命現象の解明を推進するための新たな拠点として「バイオメディシナル情報研究センター」【研究センター長 嶋田 一夫】を4月1日付けで産総研・臨海副都心センターに設立します。
これまでに産総研では、生物情報解析研究センターを中心に、創薬分子設計で重要な標的となる膜タンパク質の立体構造解析、完全長ヒトcDNAのライブラリー構築、タンパク質相互作用ネットワーク解析、機能性RNA解析、アノテーション情報を付与した遺伝子データベース開発など、生命現象を解析する上で重要な技術の開発を進めてきました。本研究センターではこれらの情報科学や実験科学を基盤にした技術を有機的に発展統合し、重要な生命現象解明に向けた研究を一層加速・発展させます。さらに、創薬、医療、診断薬の分野で産学官連携を推進し、新たな創薬手法など産業基盤に繋がる技術開発の提供を目指すイノベーションハブとしての機能を強化した研究・開発拠点としての役割を担います。
2003年にヒトゲノムが完全に解読され、遺伝子およびタンパク質機能を解析するポストゲノム時代に本格的に突入しました。産総研はこれまで世界最大の完全長ヒトcDNAライブラリーの構築、タンパク質ネットワーク解析、膜タンパク質の構造解析などを手掛け、その成果を世界に向けて発信してきました。今般それらの成果を生み出した技術を有機的に統合発展させ、その技術を用いて重要な生命現象を解明し、創薬などへ結びつけることを目的として「バイオメディシナル情報研究センター」を設立することになりました。
「バイオメディシナル情報研究センター」は、経済産業省及び独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構が実施している健康安心プログラムの4つのプロジェクト「創薬加速に向けたタンパク質構造解析基盤技術開発」、「化合物等を活用した生物システム制御基盤技術開発」、「機能性RNAプロジェクト」、「ゲノム情報統合プロジェクト」に参加して、成果の産業化を見据えたプロジェクト推進を行っています。
「バイオメディシナル情報研究センター」は、これまで産総研が蓄積してきた研究リソースを活かし、以下の研究を遂行します。
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タンパク質ネットワークの解明
タンパク質同士の相互作用解析データを数多く蓄積し、そのデータを情報科学の手法で整理して、タンパク質が生体内で構成している複雑なネットワーク構造を明らかにします。それぞれのタンパク質のネットワークでの位置付けを明確化し、疾病時に鍵となる候補タンパク質を明らかにすることで高感度・効率的な創薬スクリーニング系の開発を行います。
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タンパク質構造解析の基盤技術開発
創薬上有用であるが、これまでの技術では結晶化が困難であったタンパク質を対象として、構造解析のための基盤技術開発を行い、この技術を疾患関連タンパク質へ応用して、立体構造を明らかにします。
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新薬シーズの探索
完全長cDNAライブラリーやタンパク質相互作用解析技術等を最大限に活用し、疾患関連タンパク質の相互作用解析により、創薬の対象となるタンパク質の効率的な絞り込みを行い、天然化合物ライブラリーから、疾患等を制御する候補化合物の探索を行うと同時に、計算科学を用いて化合物の構造を予想し、新薬のシーズとなりうる化合物を探索します。
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「機能性RNA」の機能解明
「機能性RNA」を新しい創薬ターゲットと位置付け、その機能を解明し、新規RNA創薬への応用の可能性を追求します。
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ライフサイエンスデータベースの高度化
これまでに構築したアノテーション情報を付与した遺伝子データベースを活用して、当センター内外の情報を統合するとともに更にその高度化を図り、産総研から社会への成果の発信を行います。
これらの研究を通じて、創薬の効率化に資する技術を産学官連携を通じて幅広く提供することにより、産業界の課題解決への貢献が期待されます。また、生命現象の発現を担う分子に関する情報を明らかにし、ヒトゲノム情報を利用したテーラーメイド医療の実現など成果を社会へ還元することを目指します。