独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、サービス産業またはサービスそのものを研究の対象とする「サービス工学研究センター(以後、研究センター)」を平成20年4月1日に設立することを決定しました。
我が国のサービス産業はGDP並びに雇用ベースで日本経済の7割を占めるようになり、製造業と並んで日本の経済成長の牽引役となることが期待されています。しかしながら、この経済や産業における重要性にもかかわらず、近年、サービス産業における生産性の伸び率が低く、持続的な経済成長のためには生産性向上が急務となっています。
これまでサービスは、産業界においても、大学や研究機関においても、十分に研究対象として位置づけられていませんでした。このような背景から、産総研は、サービス産業生産性協議会【代表幹事 牛尾 治朗】と密接に連携しながら、研究開発を通じてサービス生産性向上のための科学的・工学的手法を確立し、組織的にサービスを科学的・工学的な視点から研究する「サービス工学研究センター」を設立することを決定しました。
研究センターにおいては、産学連携を通じて科学的・工学的手法を用いた生産性向上の方法論を開発します。研究センター長には、産総研理事長の吉川弘之が就任する予定です。
平成18年7月に閣議決定された『経済成長戦略大綱』において、「サービス産業の生産性を抜本的に向上させることにより、製造業と並ぶ双発の成長エンジンを創る」ことが提言されました。これを受けて経済産業省商務情報政策局が設置した研究会でも、「経験と勘」に頼るサービスから「科学的・工学的手法」によるサービスへの転換が必要であることなどが指摘(サービス産業におけるイノベーションと生産性向上に関する研究会報告書、2007.4)され、その具体的政策として、
(1)産業界、教育機関、行政が連携して取り組むためのプラットフォームとして「サービス産業生産性協議会」の創設
(2)サービスの科学的・工学的手法の確立を目指す研究開発拠点を産総研に整備
することが提言されました。
産総研では、これまで販売、健康、業務プロセス等のサービスに関する研究を情報技術研究部門、人間福祉医工学研究部門、デジタルヒューマン研究センター、知能システム研究部門などで既に個別に進めてきており、サービスに関する潜在的に高い研究ポテンシャルを有しています。
また経済産業省の政策的展開を受け、産総研では平成18年7月より経済産業省とともにサービス生産性向上の科学的・工学的手法について合同で検討を行うとともに、経済産業省にて策定中のサービス工学研究ロードマップのワーキンググループやサービス産業生産性協議会における科学的・工学的アプローチ委員会に産総研の研究者が参加してきました。また、平成19年12月にはサービス産業生産性協議会と連携・協力協定を締結しました。
このような経緯を受け、サービス工学研究を組織的に推進し、総合力の発揮を通じてサービス産業の生産性向上を達成するため、
(1)サービス工学研究の組織的推進母体
(2)産総研内の研究組織を横断する連携体制の核
(3)外部関係諸機関(産業界、大学、行政機関等)と円滑に連携できる窓口
として、産総研に研究センターを設置することとなりました。
サービス工学の研究では、日常のサービス現場において、サービスの提供と受容を行う人間の行動を観測、分析することで構築されたモデルで、サービスが再び設計され、現場に適用されていきます。この結果、サービスのプロセスは連続的に最適化され、サービス提供の効率化と受容者にとっての高付加価値化が同時に達成され、生産性が向上していくことが期待されます。
このような背景から、研究センターでは、
(1)大規模データ・モデリング研究(観測・分析)
(2)最適化研究(設計)
(3)サービス・プロセス研究(適用)
を研究の柱として設定します。
そして、様々な研究プロジェクトを通じて、連携する個別サービス産業の問題解決を図るとともに、既存サービスの生産性向上および新たなサービスの絶え間ない創造を促進するオープンな社会的基盤として、一般化された方法論を確立します。例えば、観測・モデル化の技術基盤、データベース、サービス生産性指標等があります。さらに、科学的・工学的手法を実際のサービス現場で担う研究者、技術者の養成も積極的に行ってまいります。
これまでのサービス研究は、国際的にはビジネススクールを中心に活発化してきましたが、科学的・工学的手法による研究開発は始まったばかりで、産総研が設立を目指す研究センターは積極的に研究活動を展開してまいります。
研究センターでは、様々なサービス事業者と連携しながら、サービス生産性向上に向けた研究プロジェクトに取り組む予定です。そのために、サービス産業生産性協議会と密接に連携しつつ、様々なサービス企業、国内外の研究機関や大学と積極的に共同研究を行い、国際的な研究拠点化を図っていきます。