独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、平成18年12月1日付けで産総研つくばセンターに「糖鎖医工学研究センター」【研究センター長 成松 久】を設立しました。産総研ではこの5年来、糖鎖合成に関わるヒト糖鎖遺伝子の網羅的探索および糖鎖構造を迅速に解析するための基盤技術を世界に先駆けて開発し、糖鎖研究における国際的な中核研究機関としての地位を築きあげてきました。本研究センターはその技術を継承・発展させるために設立されました。さらに、本研究センターは独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)が「健康安心プログラム」の一環として平成18年度より企業・大学・研究機関との共同で実施している「糖鎖機能活用技術開発」に参加しています。
がんなどの病気になると、タンパク質表面に存在する糖鎖の枝分かれ構造などが変化することが知られています。この変化を目印(バイオマーカー)として利用することにより、病気をより早期に、高感度に、迅速に診断することが可能になると考えられます。しかし、糖鎖の枝分かれ構造は非常に複雑で解析が難しく、これが糖鎖のバイオマーカーを発見・同定するにあたっての障壁となっていました。また、糖鎖が生体内においてどのような機能を持つかについては不明な点も多く残されていました。
従来、糖鎖の構造解析は、特別な技術を持った専門家により、複数の分析法を組み合わせても大量の試料を用いなければ解析できませんでした。産総研ではこの5年来、誰でも簡単に微量の試料で分析できるような迅速解析システムを開発してきました。そして昨年度までに、そのようなシステムの基盤技術を確立し、わずか1ナノグラム(10億分の1グラム)の試料から数分で複雑な糖鎖構造を解析できるようになりました。現在は、この基盤技術を活用し、実地のバイオ医療に役立つ糖鎖医工学研究を実施する段階に入っています。
本研究センターでは、これまでの糖鎖構造解析の基盤技術を活用して、「がん」、「免疫」、「再生医療」、「生殖医療」、「感染症」などにおいて診断・治療指針となる有用なバイオマーカーとなる糖鎖構造を見出す研究を行います。これによって、病気を早期に診断する新たな技術の開発とこの技術を用いた診断装置の開発が期待されます。さらに、糖鎖の生体内での役割を明らかにする研究も併せて実施します。この研究により、発病に至るメカニズムを知ることができるようになり、病気の治療や早期発見・予防につながる新しい技術が生み出されることが期待されます。
糖鎖を利用したがん治療に期待が高まる中、本研究センターが中心となり企業、大学、公的研究機関、医療機関とが密接に連携し、産学官が一体となった研究実施体制を築いています。これによって、研究成果の効率的な社会還元を目指します。