独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、東・東南アジア地球科学計画調整委員会(以下「CCOP」という)との共同主催により、鉱物資源・エネルギー資源、地球環境、地球科学情報といったグローバルな課題を議論するCCOP第41回年次総会を茨城県つくば市のつくば国際会議場で開催する。アジア11カ国、欧米12カ国の他、国連ESCAPなど16の国際機関・国際団体が参加し、外務省と経済産業省の後援により、11月15日-18日の会期で行われる。
今回は主に、日本が保有する最新の情報ネットワーク技術をいかに有効に利用して東・東南アジアにおける地質情報の国際的共有化・標準化を早急に進めるべきかという問題が議論される。実際の適用対象としては、経済発展が進むアジアにおける社会インフラ強化の分野である。特に東・東南アジア各国では地下水の不足と汚染が深刻化しており、環境悪化の現状把握と対策が重要課題となっている。
産総研では、国内外の関係者が一堂に会して討論を行なう場を提供するとともに、アジア地域の持続的開発に技術面から貢献することを目指す。
具体的には、急速な開発によって破壊が進んでいる海岸環境に対する日本主導によるアジア版の地下水管理技術・海岸環境保全技術を検討するワークショップ、最新人工衛星画像による環境変動データ解析技術の講習、そして地質災害に関する火山学から学ぶ災害予測法の野外実習、アジアの地球科学情報のインターネット普及サービスに関するシンポジウム、などの提案を行う。
会議では、特に上記課題を中心に政府代表者による報告及び各国からの研究提案の審議が行われる他、国内外の研究機関及び企業が出展する研究成果の展示会も企画されており、これを契機として、今後の持続的な経済発展を目指した東・東南アジア地域における戦略的な国際共同研究を強力に進められるようになることが期待されている。
CCOP(東・東南アジア地球科学計画調整委員会:Coordinating Committee for Geoscience Programmes in East and Southeast Asia)は、1966年にESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会:United Nations Economic and Social Commission for Asia and the Pacific)の付属機関として多国間の共同資源探査のために設立された。その後ESCAPより独立し、現在は11ケ国(中国、インドネシア、日本、韓国、カンボジア、マレーシア、パプア・ニューギニア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)が加盟する政府間機関となっている。事務局はバンコク。
また、14ケ国の協力国(オーストラリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、オランダ、日本、ノルウェー、スイス、英国、ロシア、米国、スウェーデン、デンマーク)が資金的・技術的に援助している。
現在のCCOPは、東・東南アジア地域における持続的開発のため、応用地球科学分野の活動を多国間で行うことを任務としており、以下の役割を持つ。
-
多国間の地球科学プロジェクト、基礎及び応用研究、域内研修プログラムの進捗について定期的にレビューする。
-
必要に応じて加盟国の政府に対し、地球科学プロジェクト実施の方策を勧告する。
-
必要に応じてそのようなプロジェクトの資金的及び技術的支援について検討する。
-
加盟国政府に代わって、協力国、国連機関及びその他の支援団体に対して、技術的・資金的及びその他の援助に係わる要請を行う。
-
政府間で合意された地球科学プロジェクトに関連する問題を検討し、助言する。
-
東・東南アジアの地球科学プログラムの実施計画を、参加国政府及び関心のある諸機関・団体に提出し、それらを推進する。
-
地球科学分野での活動において、加盟国の技術者が研修を受けるために必要なプログラム及び環境を整える。
CCOPでは、加盟国・協力国間の共同プロジェクトを推進する場として、年に一度アジアの加盟国の持ち回りで年次総会を開催しており、1966年の初会合より第41回開催となる今回は、日本で6度目、つくばでは1995年に続き2度目の開催となる。
地質情報は、国土の利用、地震・火山災害対策、資源・エネルギーの確保、環境問題などのための基礎的・基盤的資料として効果的に使われるべき公共財であり、誰でも必要な時に利用できるように整備されることが重要である。産総研の地質調査総合センターでは、1882年創設の地質調査所時代より長年にわたり継続的に蓄積されてきた地質情報を継承し、その上に今後新たに創出される新しい知見を体系的に整理・統合して、より信頼性の高い地質情報として広く社会に提供することが重要な使命であると位置付けている。
このため、産総研が国内唯一の地質情報発信拠点であると認識し、国民や社会が問題解決に必要とする情報や判断材料を的確に提供できるよう地質情報の整備計画を推進し、品質管理や効率的流通、発信について、常に改善に努めている。
また、国際社会との協調に関しても、産総研(地質調査総合センター)は日本を代表して世界各国の地質調査代表機関との連携や協力を推進しており、特にCCOPに対してはプロジェクトを支援することを通して、アジアにおける主導的役割を担うことを目指している。
今回の年次総会では、エネルギー・資源、地球環境、地球科学情報をテーマとしてCCOP事務局や各国からの1年間の活動報告(カントリーレポート)の他、各国が現在取り組んでいる課題についての討論を行う技術セッション及び参加機関の活動や最新の研究成果を紹介する展示会を予定しており、総勢150名を超える加盟各国の地質調査研究機関・鉱物資源局・石油公社などの幹部や欧米の協力国の代表の参加が見込まれている。
産総研では、地質情報の国際的共有化・標準化に利用する方針に沿い、産総研が持つ世界でも指導的な立場にある先進情報ネットワーク技術を、地盤変動・環境変動などの地球モニタリングに有効な人工衛星データの最新解析技術や、アジアにおいても関心が高い過去の火山活動や地震活動の情報を用いた地質災害将来予測により災害を軽減するという課題に対して適用することを提案する。
技術セッションでの主要テーマは、「経済発展が進むアジアにおいて、発展を妨げる環境悪化の現状と対策」である。具体的には、農業や工業の基盤となる地下水の水質や量の管理に関する技術や、マングローブの伐採、ダム建設や工業用地建設など急速な開発によって引き起こされる海岸環境破壊の実態解明と対策について、東・東南アジア各国でのデルタ地域における事例をもとにした議論を行う。この分野は欧米がしのぎを削って研究開発を行っているが、それら技術はヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカへの応用を目的としたものとなっており、アジアへの適応という点では経験が少ない。産総研はアジア版の地質環境データの国際標準化に努め、世界をリードする考えであり、これらCCOP加盟国との多国間共同研究プロジェクトについて、産総研の独自予算で推進する。
さらに、今回の新しい企画である展示会では、産総研の他、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構などの政府関係機関・研究所、大学、企業などが出展の予定で、各技術分野における貴重な情報交換の場として期待される。
CCOPでは、資源・エネルギー、地球環境、地球科学情報に関して、これまでに30以上のプロジェクトや研修が行われてきた。2002年6月までに総参加者数は1200人に上る。これらのプロジェクトの成果は、東・東南アジアをカバーする小縮尺の図面、技術論文集(英文)、CD-ROMなどの形式でまとめられている。
今後は、CCOPを軸として地質情報の世界標準化、地球環境を配慮した持続的発展のための技術開発、自然災害軽減技術の開発などの地球規模の研究を行う計画である。
産総研では、これに関連し今年度より新たに以下の5つのプロジェクトを開始し、アジアの社会インフラ向上を助けアジアにおける持続的発展に技術面から貢献していく。
-
火山災害軽減のための野外ワークショップ
-
東・東南アジアのデルタに対する統合的地質学的評価
-
東・東南アジアの大河川流域に沿った地下水評価
-
アジア地球科学情報ネットワーク(GAIN)
-
日本-タイ合同セミナー
さらに、長期的な展望においては、政府レベルでの会話から、企業レベルでの技術交流へと移行すること、アジアへの日本の技術導入が盛んになり、アジアとの技術的な連携がより強固なものとなることを目指して活動を行って行く。