産総研 - ニュース お知らせ

お知らせ記事2003/10/02

産学独連携ベンチャー企業「(株)材料設計技術研究所」が発足
-効率的な材料開発の実現を目指して-

概要

 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)、独立行政法人産業技術総合研究所(理事長:吉川弘之)、東北大学(総長:吉本高志)、九州工業大学(学長:下村輝夫)のナノテクノロジー・材料分野に携わる研究者9名と(有)インターサイエンス(代表取締役社長:石橋明弘)から2名が参加して、産学独の連携によるベンチャー企業「(株)材料設計技術研究所」を平成15年9月12日に発足させました。現在、物材機構及び産総研の認定ベンチャー企業となるための手続きを進行中です。なお、平成15年度に新しく発足した物材機構発ベンチャー企業は2社目、産総研発ベンチャー企業は6社目となります。

 これまで、新材料開発は試行錯誤的色彩が強く、開発に5~10年を要することは当然と考えられてきました。しかし、最近では「多品種少量高効率生産」が求められていることから、高性能な材料開発・設計システムが必要とされています。新たに設立した(株)材料設計技術研究所は、多年にわたる研究成果(実験、理論、計算)を基盤にして、我が国発の論理的な「材料設計技術」を確立し、技術・製品(ノウハウ、データベース、コンピュータソフトウェア)の形式で、世界的に提供することを目指しています。

 具体的には、材料設計の基本ツールとして使用されている状態図計算用のデータベース及びPhase field(フェーズ・フィールド)法による材料組織形成の予測・解析ソフトウェアの開発、販売、コンサルティングです。特に、組織形成の予測・解析ソフトウェアとその解析に必要な熱力学データベースを同時に提供できるのが新会社の大きな競争力です。

 産総研、東北大学、九州工業大学は状態図・熱力学データベースの開発を行っています。産総研ではFe-S基10元系データベース、東北大学ではCu合金用データベース及び鉛フリーはんだ合金用データベース、九州工業大学ではFe-B基データベースの開発を終了しており、まずこれらのデータベースの販売とコンサルティングを行います。

 一方、物材機構では凝固相分解、固相変態結晶成長など様々な分野に応用できるPhase field法による組織形成シミュレーション手法の開発を進めています。当面は個別材料や組織形成の種類に特化した専用ソフトウェアを開発し、多くの事例が蓄積された段階で汎用ソフトを開発する予定です。

 販売ターゲットは、金属素材メーカー、自動車・機械メーカー、電機メーカー、大学等の研究機関です。データベースに関しては150万円/本程度で売り出す予定で、初年度は、受託解析、コンサルティングとあわせて2千万円程度の売り上げを目指しています。

参加者のプロフィール

1.参加者のプロフィール

(独立行政法人物質・材料研究機構)
  小野寺秀博((株)材料設計技術研究所 取締役)
   現在:独立行政法人物質・材料研究機構 計算材料科学研究センター長
   担当分野:材料設計、組織予測
  小山 敏幸((株)材料設計技術研究所 取締役)
   現在:独立行政法人物質・材料研究機構 計算材料科学研究センター 
      粒子・統計熱力学グループ 主任研究員
   担当分野:Phase field

(独立行政法人産業技術総合研究所)
  及川 勝成((株)材料設計技術研究所 取締役)
   現在:独立行政法人産業技術総合研究所東北センター
      基礎素材研究部門 主任研究員
   担当分野:マイクロアロイング鋼、Co基合金、磁場誘起形状記憶材料

((有)インターサイエンス)
  石橋 明弘((株)材料設計技術研究所 代表取締役社長)
   現在:(有)インターサイエンス 代表取締役社長
   担当分野:運営
  橋本 清 ((株)材料設計技術研究所 取締役)
   現在:(有)インターサイエンス 取締役
   担当分野:技術管理

(東北大学)
  石田 清仁
   現在:東北大学未来科学技術共同研究センター 教授
   担当分野:Cu基合金、マイクロアロイング鋼、はんだ合金
  貝沼 亮介
   現在:東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻 助教授
   担当分野:熱処理、組織、状態図、マルテンサイト変態
  大沼 郁雄
   現在:東北大学大学院工学研究科材料物性学専攻 助手
   担当分野:Cu基合金、マイクロアロイング鋼、はんだ合金
  小池 淳一
   現在:東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻 助教授
   担当分野:有限要素法、材料強度

(九州工業大学)  
  長谷部光弘
   現在:九州工業大学工学部物質工学科材料工学教室 教授
   担当分野:マイクロアロイング鋼、Fe-B基合金
  大谷 博司
   現在:九州工業大学工学部物質工学科材料工学教室 助教授
   担当分野:マイクロアロイング鋼、化合物の熱力学、電子論計算

補足事項
 (株)材料設計技術研究所の役員参加者は、それぞれ兼業により就任します。

(株)材料設計技術研究所の概要(パンフレット:PDF 2.2MB

(1)創業の目的・意義

 我が国の21世紀における重要技術分野として「ナノテクノロジー・材料」が掲げられている。(株)材料設計技術研究所は独立行政法人物質・材料研究機構、独立行政法人産業技術総合研究所、東北大学、九州工業大学、及び有限会社インターサイエンスの「ナノテクノロジー・材料」分野に携わる専門家が集結し、大学、研究機関の研究成果を迅速に社会へ還元することを目的とした日本で初めての産学独連携によるベンチャー企業である。
 これまで、新材料開発は試行錯誤的色彩が強く、開発に5~10年を要することは当然と考えられてきた。しかし、最近では「多品種少量高効率生産」が求められていることから、新製品開発に関してこれを可能にする、経験(実験)と論理(理論、計算)を総動員した高水準の材料開発・設計システムが必要とされている。
 (株)材料設計技術研究所は多年にわたる研究成果(実験、理論、計算)を基盤にして、我が国発の論理的な「材料設計技術」の確立を目指し、技術・製品(ノウハウ、データベース、コンピュータソフトウェア)の形式で、次世代の材料設計技術を世界的に提供するものである。また、あわせて材料設計技術者の養成も行う。

(2)事業内容

  • 材料設計に必要な状態図計算用自由エネルギー関数のデータベースの製造販売
     銅合金用データベース、鉛フリーはんだ用データベース、Fe-S基、Fe-B基などのマイクロアロイング鋼データベース、磁性材料データベース等
  • 組織設計シミュレーションシステムの開発、販売
     Phase Field法(組織形成シミュレーション)の基本ソフトウェア
  • 受託解析とコンサルティング
     高度な専門知識を要する各ソフトウェアを利用した受託解析

(3)株式会社材料設計研究所の規模等

  1. 資本金 1000万円
  2. 役員数 5名
  3. 従業員 1名
  4. 所在地
     本社 :〒103-0011 東京都中央区日本橋大伝馬町2番5号
     連絡先:TEL&FAX 03-3660-5080 E-Mail:info@materials-design.co.jp

用語の説明

◆状態図計算
状態図とは、温度、組成(化学成分)、圧力などの条件とその条件下で物質のとる状態(構造)を示す図のことを言う。状態図は従来実験で決められるが、近年の計算機の発展と熱力学理論モデルの高度化により、計算により求める(予測する)ことが可能となり、CALPHAD(CALculation of PHAse Diagram)法と呼ばれ、著しい発展を遂げている。[参照元へ戻る]
Phase field
組織の形態を連続体モデルに基づき組成や規則度等の変数(場)で表現し、その時間変化(発展)を計算して、組織形成過程を解析する方法。[参照元へ戻る]
◆材料組織
材料は通常複数の構造が組み合わさって形成されている。どのような構造がどのような割合で存在するか、またその形態やサイズまでを含めて組織と言う。材料の強度や磁性などの特性はこの組織によって大きく影響される。[参照元へ戻る]
◆Fe-S基合金
鉄鋼材料中に存在する微量硫化物はその種類や形態により特性に大きく影響する。そのため、Mn, Ti, Nb等の合金元素を含めた多元系のデータベース開発が望まれている。[参照元へ戻る]
◆はんだ合金およびCu合金
環境対策の観点からPbフリーはんだの製品開発が急務となっており、そのデータベース開発が望まれている。Pbフリーはんだ及び基板としてのCu合金に関する相安定性の評価を行うためのデータベースを保有するのは当社のみである。[参照元へ戻る]
◆Fe-B基
Bは微量で鋼の材料特性を大きく影響する重要な元素であり、多元系のデータベース開発が望まれている。[参照元へ戻る]
◆凝固
高温の液体状態から冷却された場合に、液体から固体への変化を凝固と言う。[参照元へ戻る]
◆相分解、固相変態
温度条件を変化させた場合に異なる構造に変化することを相変態と呼び、特に固体状態での相変化を固相変態と言う。元の構造から異なる構造に変化したものが混在する状態は、元の構造が分解し複数の構造に分解した状態でもあるため、相分解と呼ぶ場合も有る。[参照元へ戻る]
◆結晶成長
金属材料はほとんどの場合、微細な結晶の集合体からなる。温度を上昇させた場合に個々の微細結晶のサイズが大きくなっていく現象を結晶成長と言う。[参照元へ戻る]
◆自由エネルギー
熱力学で定義され、物質の状態を記述するエネルギー関数のこと。[参照元へ戻る]