独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)と泉工医科工業株式会社【代表取締役社長 青木 由雄】は、心臓手術後2週間以上使用可能な補助循環ポンプを開発する共同研究契約を締結した。2年以内の製品化を目指し、共同で研究開発を行う。
現在、年間3万人以上の患者が心臓手術を受けているが、心臓手術及び手術後に大腿部からカニューレ挿入し、補助循環に使用されている遠心(回転)型の補助循環ポンプ【図1】の使用期間は2日以内のものが多く、そのため、手術後2日毎にポンプの交換が必要であった。しかし、2日毎にポンプを交換することは、患者側にも医療機関側にも大きな負担である。通常、心臓が治癒するには、2週間程度の期間が必要とされており、この期間を連続使用できる補助循環ポンプは、臨床現場から開発を強く要望されていた。また、使用期間が1ヶ月の補助人工心臓があるが、価格が300万円を超えるため、患者の経済的負担を軽減する理由からも安価な製品が要望されていた。本共同研究では、使用期間が2週間以上で、価格が補助人工心臓の1/20以下の経済的な製品の開発を目指す。
本ポンプが製品化されれば、患者の身体的負担や経済的負担が著しく軽減され、他の治療法の併用も可能になると見込まれる。さらに将来は再生医療などの新しい治療法を導入することも可能になると見込まれる。用途としては、開心術用、補助循環用、心肺補助用、およびこれらの乳小児用ポンプなどを予定している。
製品開発しようとしているのは、シールレスかつ低摩擦軸受で構成され、血液適合性と機械耐久性を有する、廉価で使い捨て式の補助循環ポンプであり、自己診断機能付きのドライバー機構も特徴である。このための基本技術は、経済産業省の支援のもとで産総研が研究してきた一点支持型遠心ポンプで【図2、図3】、血球破壊が少ない特徴を有し、筑波大学【学長 北原 保雄】の協力を得て行った動物実験で血液凝固を起こさないことが検証され、製品化の目途がついた。血流に対するポンプ設計には、産総研の流れの可視化技術および数値流体解析を駆使している。
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図1 補助循環ポンプの使用例
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図2 一点支持型遠心ポンプ機構
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図3 動物実験に使った遠心ポンプ原型
(製品ではポンプとモータが分離できるようにする)
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現在、年間3万人以上の患者が心臓手術を受けているが、心臓手術及び手術後に大腿部からカニューレ挿入し、補助循環に使用されている遠心(回転)型の補助循環ポンプの使用期間は2日以内のものが多く、そのため、手術後2日毎にポンプの交換が必要であった。しかし、2日毎にポンプを交換することは患者側にも医療機関側にも大きな負担である。通常、心臓が治癒するには、2週間程度の期間が必要とされており、この期間を連続使用できる補助循環ポンプは、臨床現場から開発を強く要望されていた。また、使用期間が1ヶ月の補助人工心臓があるが、価格が300万円を超えるため、患者の経済的負担を軽減する理由からも安価な製品が要望されていた。なお、これまで、人工心臓の研究は国内でも数多く行われてきたが、製品化につながる研究は稀であった。
本共同研究の原型である、一点支持型遠心ポンプは、経済産業省の医療福祉機器研究開発支援のもとで、筑波大学臨床医学系の協力を得て産総研が研究してきたもので、すでに1週間以上の動物実験は20回ほど実施しており、血栓等の大きな問題は解決されている技術である。今般、泉工医科工業株式会社からの共同研究の要請に応え、経済産業省からの受託研究、中小企業支援型研究開発制度により、実用化を目指して共同で製品開発を行う。
産総研人間福祉医工学研究部門では、今回、共同研究する補助循環ポンプの原型として、人工心臓用に羽根車の一端を永久磁石の磁気軸受で、他端をピボット軸受で接触支持する、一点支持型遠心ポンプ(「モノピボット磁気支持ポンプ」)の開発を行ってきた。
機械耐久性に関しては、ピボットにおける摩耗低減が課題であった。人工関節の材料を参考にして摩耗比較試験を行い、耐久性試験を3か月クリアした。血液適合性に関しては、ピボットにおける溶血と血栓が課題であった。溶血特性については、動物血を用いて、手術用遠心ポンプよりも血球破壊が少ないことを反復確認し、低溶血が本ポンプの特徴であることがわかった。抗血栓性については、羽根車中心のピボット付近の淀みを解消させるための形状設計変更を繰り返し、可視化実験、すなわち血液に粘度を合わせた液体に置き換えて速度計測し、淀みや摩擦の生じる場所をなくす模擬実験によって事前評価した。この後、筑波大学臨床医学系の協力を得て行った動物による抗血栓性評価の結果、最終モデルでほぼ全ての血栓形成を解消できることを、最長2週間の動物実験で確認した。
今回、共同研究する補助循環ポンプは、開心術用、補助循環用、心肺補助用、およびこれらの乳小児用ポンプなどとして開発し、形状としてはポンプを切り離し、使い捨て構造に変更し、ポンプの血液適合性と制御駆動機器の信頼性をより高める開発を行う。2年以内の製品化を目指し、ポンプ部分が既存の補助人工心臓の価格の1/20以下の経済的な製品を目指す。筑波大学の協力を得て行う予定の動物実験も含めて、共同研究を行うことになっており、製造承認がとれれば臨床応用に供する計画である。産総研としては、臨床経験が蓄積されれば、再生医療や遺伝子治療にも使用できるような補助人工心臓に発展させたいと考えている。