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お知らせ記事2018/11/19

地層「千葉セクション」の審査状況について
-GSSP認定へ向けて-(2018年11月)

  • 千葉県市原市の地層「千葉セクション」を、国際境界模式層断面とポイント(GSSP)とする申請が、審査の第2ステップである小委員会の審査を通過した。
  • 千葉セクションは、日本の研究チームが2017年6月に地質時代の前期‐中期更新世境界のGSSPに申請し、同年11月に第1ステップの審査を通過していたものである。
  • 今後、小委員会から第3ステップの審査を行う委員会に向けて、千葉セクションの審査を行うよう答申が出される。
  • 審査は全部で4ステップあり、最終的に第4ステップの審査に通過すれば、千葉セクションはGSSPとなり、約77万年前~約12万6千年前の地質時代の名称が「チバニアン」と名付けられる。

2018年10月17日から11月16日(イギリス時間)、国際地質科学連合(IUGS)内の第四紀層序小委員会(SQS)で、前期‐中期更新世境界(注1)のGSSP(注2)として「千葉セクション」(注3)を認めるかどうかの投票が行われました。その結果、委員22名中19名の票を得て「千葉セクション」が認められ、上部の委員会に答申されることになりました。

「千葉セクション」をGSSPに提案する申請書は、主に日本の研究者からなる申請チーム(後述)が提出していたもので、昨年11月にGSSP審査の第1ステップである作業部会で、3つの地層の中から選出されていました。それを受けて申請チームは、申請書に新たな研究データを加えるなどの改訂を行い、今年7月に審査の第2ステップであるSQSに提出しました。

SQSでは、約2カ月の討論期間の後、1カ月間、電子メールでの投票が行われました。今後は、注4の図に示したステップで答申を認めるかどうかの審議が行われ、最終的にIUGSの投票で60%以上の得票があれば、「千葉セクション」が前期‐中期更新世境界を示すGSSPとなります。GSSPとなった場合、地質時代の中期更新世(約77万年前~約12万6千年前)が、「千葉の時代」を意味する「チバニアン(Chibanian)」と名付けられます。

現在、日本にGSSPはありません。千葉セクションが日本初のGSSPになり、地質時代の名称が日本の地名に由来したものになれば、地質学だけでなく、日本の科学史においても大きな出来事になります。また、地質学の一般への普及や小・中・高校生などへの教育においても大きな波及効果が期待されます。

注1 地質時代の「前期-中期更新世境界」
地質時代は、地球上の岩石をその形成された年代に基づいて区分したもの。国際地質科学連合や国際層序委員会等によりInternational Chronostratigraphic Chartとして提示されている。ただし、時代区分の定義、名称や基準となる年代等に関しては絶えず見直されており、新生代第四紀更新世前期-中期境界のようにまだ合意に至っていない時代もある。
更新世は人類の時代である新生代第四紀のはじめの時代である。その中でも前期と中期の境界は、これまでで最後の地球の磁場逆転が起きた時期である。 [参照元へ戻る]
注2 GSSP
Global Boundary Stratotype Section and Point(国際境界模式層断面とポイント)。IUGSは、それぞれの地質時代の境界を地球上で最もよく示す地層を1つだけ選び、GSSPに認定している。GSSPは現在、世界に71カ所あるが、日本にはまだない。[参照元へ戻る]
注3 千葉セクション
千葉県市原市にある養老川セクション(35˚17.41’N; 140˚8.48’E)の中の地層の名。提案申請書では養老川セクションのほかに、養老田淵セクション(35˚17.41’N; 140˚8.49’E)、柳川セクション(35˚17.15’N; 140˚7.88’E)、浦白セクション(35°16.85’N; 140°7.47’E)、小草畑セクション(35˚18.52’N; 140˚11.89’E)から得られたデータが用いられている。これらのセクションをまとめて千葉複合セクションと呼ぶ。[参照元へ戻る]
注4
GSSP決定までの審査ステップは以下のとおり。
①下部−中部更新統境界作業部会で審査。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2017年11月通過
 審査結果をSQSへ答申。

②SQSで答申を認めるか投票。60%以上の得票が必要。 ・・・・・・・・・・・・2018年11月通過

③ICS(国際層序委員会)にて投票。60%以上の得票が必要。

④IUGS(国際地質科学連合)にて投票。60%以上の得票が必要。

GSSP決定
※今後の投票の時期などは通知されていない。
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提案申請書および申請チームについて

タイトル:The Chiba Composite Section, Japan: a proposed Global Boundary Stratotype Section and Point (GSSP) for the base of the Middle Pleistocene Subseries
申請者:
千葉セクション申請チームメンバー(姓のアルファベット順)

羽田 裕貴(茨城大学大学院理工学研究科)
林 広樹(島根大学大学院総合理工学研究科)
本郷 美佐緒(有限会社アルプス調査所)
堀江 憲路(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻)
兵頭 政幸(神戸大学内海域環境教育研究センター)
五十嵐 厚夫(復建調査設計株式会社)
入月 俊明(島根大学大学院総合理工学研究科)
石塚 治(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
板木 拓也(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
泉 賢太郎(千葉大学教育学部)
亀尾 浩司(千葉大学大学院理学研究院)
川又 基人(総合研究大学院大学極域科学専攻)
川村 賢二(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻/海洋研究開発機構)
木村 純一(海洋研究開発機構)
小島 隆宏(筑波大学大学院生命環境科学研究科)
久保田 好美(国立科学博物館)
熊井 久雄(大阪市立大学名誉教授)
中里 裕臣(農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究部門)
西田 尚央(東京学芸大学教育学部)
荻津 達(千葉県環境研究センター)
岡田 誠(茨城大学理学部)
奥田 昌明(千葉県立中央博物館)
奥野 淳一(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻)
里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)
仙田 量子(九州大学大学院比較社会文化研究院)
紫谷 築(島根大学大学院総合理工学研究科(研究実施当時))
Quentin SimonAix-Marseille University (フランス))
末吉 哲雄(国立極地研究所)
菅沼 悠介(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻)
菅谷 真奈美(技研コンサル株式会社)
竹下 欣宏(信州大学教育学部)
竹原 真美(国立極地研究所)
渡邉 正巳(文化財調査コンサルタント株式会社)
八武崎 寿史(千葉県環境研究センター)
吉田 剛(千葉県環境研究センター)

関連論文

【関連論文1】
Kazaoka O., Suganuma Y.*, Okada M., Kameo K., Head M. J., Yoshida T., Sugaya M., Kameyama S., Ogitsu I., Nirei H., Aida N., Kumai H., Stratigraphy of the Kazusa Group, Boso Peninsula: an expanded and highly-resolved marine sedimentary record from the Lower and Middle Pleistocene of central Japan, Quaternary International (2015) 
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040618215002128

【関連論文2】
Suganuma Y.*, Okada M., Horie K., Kaiden H., Takehara M., Senda R., Kimura J., Kawamura K., Haneda Y., Kazaoka O., Head J. M., Age of Matuyama-Brunhes boundary constrained by U-Pb zircon dating of a widespread tephra, Geology (2015)
http://geology.gsapubs.org/content/early/2015/04/24/G36625.1.abstract

【関連論文3】
Nishida N.*, Kazaoka O., Izumi K., Suganuma Y., Okada M., Yoshida T., Ogitsu I., Nakazato H., Kameyama S., Kagawa A., Morisaki M., Nirei H., Sedimentary processes and depositional environments of a continuous marine succession across the Lower-Middle Pleistocene boundary: Kokumoto Formation, Kazusa Group, central Japan, Quaternary International (2016)
https://doi.org/10.1016/j.quaint.2015.06.045

【関連論文4】
Okada M.*, Suganuma Y., Haneda Y., Kazaoka O., Paleomagnetic direction and paleointensity variations during the Matuyama-Brunhes polarity transition from a marine succession in the Chiba composite section of the Boso Peninsula, central Japan, Earth, Planets and Space (2017) 
https://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/s40623-017-0627-1

【関連論文5】
Suganuma Y.*, Haneda Y., Kameo K., Kubota Y., Hayashi H., Itaki T., Okuda M., Head J. M., Sugaya M., Nakazato H., Igarashi A., Shikoku K., Hongo M., Watanabe M., Satoguchi Y., Takeshita Y., Nishida N., Izumi K., Kawamura K., Kawamata M., Okuno J., Yoshida T., Ogitsu I., Yabusaki H., Okada M., Paleoclimatic and paleoceanographic records through Marine Isotope Stage 19 at the Chiba composite section, central Japan: A key reference for the Early–Middle Pleistocene Subseries boundary, Quaternary Science Reviews (2018)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277379117302251

* は責任著者。

参考

これまでの経緯については、過去のプレスリリースをご参照ください。

国立極地研究所、茨城大学、海洋研究開発機構プレスリリース「地球最後の磁場逆転は従来説より1万年以上遅かった~千葉県市原市の火山灰層の超微量・高精度分析により判明」2015年5月20日
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20150520.html

国立極地研究所、茨城大学、千葉大学、国立科学博物館ほかプレスリリース「千葉県市原市の地層を地質時代の国際標準として申請 認定されれば地質時代のひとつが『チバニアン』に」2017年6月7日
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20170607.html

国立極地研究所、茨城大学、千葉大学、国立科学博物館ほかプレスリリース「国際標準模式地の審査状況について ~地層『千葉セクション』の認定へ向けて~」2017年11月14日
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20171114.html

国立極地研究所、茨城大学プレスリリース「千葉時代(チバニアン)提案に不可欠な環境変動記録の復元」2018年7月5日
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20180705.html

国立極地研究所、茨城大学ほかプレスリリース「お知らせ 国際標準模式地の審査状況について ~地層『千葉セクション』の認定へ向けて~(2018年7月)」2018年7月24日
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20180724.html

さいごに

「千葉セクション」申請チームメンバーであり、GSSP認定に向けた活動の初期からチームを率いてこられた大阪市立大学の熊井久雄名誉教授が10月28日にご逝去されました。生前のご功績を称えるとともに謹んで哀悼の意を表します。