産総研 - ニュース お知らせ

2016/11/01

【訃報】進藤昭男 名誉リサーチャー

故・進藤昭男 名誉リサーチャーの写真

 産業技術総合研究所(以下産総研)関西センター名誉リサーチャー 進藤昭男氏が、平成28年10月31日に急性心不全のため90歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び、謹んで哀悼の意を表します。

 同氏は1952年に産総研の前身の一つである通商産業省工業技術院大阪工業技術試験所に入所し、入所後に炭素繊維(一次元炭素材料)の研究に取り組まれました。そして、1959年にはPAN系炭素繊維に係る基本特許を出願されました。

 こうした研究を受けて、日本国内でも炭素繊維の研究に参入する企業が増え、産業化に向けた取り組みに繋がっていきました。1962年には(株)日本カーボンがPAN系炭素繊維のパイロットブランドを設立。1971年には、ライセンス許諾を受けて産官連携で長期の開発を行っていた(株)東レが、PAN系高性能炭素繊維の本格的生産を開始しました。

 炭素繊維を構造材料として使用するときには、繊維の状態ではなく、主に樹脂などに埋め込んだ複合材料として用いられます。複合材料というのは、2つ以上の異なる材料を一体的に組み合わせたもので、強化材料とそれを支持するための母材から構成されています。この複合材料のなかでも最も多く使われているのが、母材に熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP=Carbon-Fiber-Reinforced Plastic)です。

 この材料は現在の私たちの暮らしになくてはならないものとなっています。1970年代にスポーツ用具に使用されたことで、一般消費者にとってもとても身近なものとなりました。釣竿、ゴルフシャフト、テニスラケット、スキー板など、さまざまな用具に活用され、軽量化はもちろん性能の向上に大きな役割を果たしました。現在でも、スポーツ用具全般に不可欠な素材として活用されています。1980年代からは、大型旅客機の機体への活用が始まりました。最新鋭機であるボーイング787では、機体の構造重量全体の50%をCFRPが占めています。燃費の向上はもちろん、胴体構造の強度化により客室スペースが拡がり快適性も高まりました。

 同氏はPAN系炭素繊維の発明以後、製造法の特許を取得し、30社近くの企業への技術指導を行いました。さらに、炭素繊維評価法の標準化の取りまとめなども行い、炭素繊維技術力の基盤づくりに尽力されました。ある発明を他の分野で製品化に結びつけたこの方法論は、「進藤モデル」と呼ばれ、現在の産総研の「橋渡し」研究の先駆的な事例として研究開発、イノベーション推進の土台となっています。

 このように同氏はわが国産業と産総研の発展に多大な貢献をされました。その功績を讃えるとともに、心からご冥福をお祈りいたします。

関連情報