国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)省エネルギー研究部門【研究部門長 宗像 鉄雄】と無機機能材料研究部門【研究部門長 淡野 正信】は、下記の参画企業・大学と共同で、固体酸化物を電解質として使った革新的なエネルギー変換デバイスの創製を目指す「固体酸化物エネルギー変換先端技術コンソーシアム (ASEC; Advanced Technology Consortium For Solid State Energy Conversion)」を発足した。
このコンソーシアムでは、固体酸化物形燃料電池(SOFC)や高温水蒸気電解に利用できる固体酸化物電解セル(SOEC)に関連する技術を開発している民間企業や大学、研究機関と産総研とが共同研究契約を結び、次世代・将来世代のための革新的なエネルギー変換技術を研究開発するとともに、2030年、2050年を展望し、これらの技術分野の社会実装と低炭素社会実現のための技術開発シナリオを議論していく(下図)。
コンソーシアム参画機関 (全14機関)
大阪ガス株式会社、住友金属鉱山株式会社、株式会社デンソー、東京ガス株式会社、TOTO株式会社、東邦ガス株式会社、日本特殊陶業株式会社、日立造船株式会社、三浦工業株式会社、株式会社村田製作所、国立大学法人九州大学、国立大学法人筑波大学、国立大学法人東京大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所 (企業・大学名は50音順)
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固体酸化物エネルギー変換先端技術コンソーシアム(ASEC)の連携・活動イメージ |
固体酸化物を電解質として使ったエネルギー変換デバイスの代表例には、次世代型家庭用燃料電池(エネファーム type S)があげられる。これは、電気への変換効率の高い機器(52 %(LHV))として販売・普及が始まっている。また業務用・産業用燃料電池の実証や事業用燃料電池の技術開発が進行している。これらの新しいエネルギー変換機器には、固体酸化物形燃料電池(SOFC)が搭載されている。SOFCは600 ℃以上の高温で作動し、耐熱性の機能性固体酸化物セラミックスや金属を積層して構成されている。
またSOFCの逆反応である高温水蒸気電解で利用する固体酸化物電解セル(SOEC)は、余剰電力を使って高温水蒸気を電気分解することで水素を高効率に製造でき、不安定な再生可能エネルギーの変動吸収や将来の安価な水素製造装置として期待が高まっている。このように、固体酸化物電気化学デバイスを使ったエネルギー変換装置は、潜在的には高効率で幅広い用途での利用が期待されている。
2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画には、化石燃料を有効に使いながらも将来的には水素社会を目指すことが掲げられている。また2016年3月には経済産業省による水素・燃料電池戦略ロードマップが改訂された。このロードマップでは、フェーズ1からフェーズ3を設定して着実な水素社会の実現を目指している。フェーズ1では、燃料電池の本格普及の推進が記述され、エネファームをはじめ、業務用・産業用燃料電池の普及、事業用への展開が期待されている。また、燃料電池自動車の普及拡大についても記述されている。フェーズ2からフェーズ3では、再生可能エネルギーからの水素製造、海外からの安価な水素輸入なども視野に水素社会構築が記述されている。さらに2015年12月のCOP21において、日本は2013年比で26 %の温室効果ガス削減目標を提案したが、この目標を実現するには大幅な温室効果ガス削減が必要であり、技術開発が必要とされている。
このような背景の中で、10年以上先の2030年頃の将来世代SOFC-SOECなどが本格普及する社会を展望すると、コスト面や必要性能の点から、従来の数倍~10倍以上の電極反応速度や電流密度、出力密度を達成できる固体酸化物電気化学デバイスの電極材料やセルスタック技術が必要となってくる。本コンソーシアムでは、それらに必要な技術のうち、民間企業が当面取り組むことが難しいチャレンジングでブレークスルーが必要な課題を取り上げ、主として産総研のシーズを使いながら、参画機関が連携・協力してその解決を目指す。
本コンソーシアムは、産総研と参画機関が共同研究契約を結び、同一の運営規約、知的財産権取扱規約に合意し合議で活動するイノベーションコンソーシアムである(設置予定期間:2016年6月1日~2021年3月31日の5年間)。組織としては産総研が主体で運営する任意団体であるが、運営会議や各種専門委員会などを設けて参画機関と密に連携した運営を行う。本コンソーシアムは、固体酸化物電気化学デバイスに関連した研究開発を行っている企業・大学・研究機関で構成され、材料~セルスタック~システムという、上流から下流までの幅広い企業を対象としている。従来のように国の事業に参画している機関だけでなく、さまざまな企業や団体が入会でき、議論を深め連携することができる。共同研究費の額や参加機関の法人格の種類により、プライマリ、アクティブ、アソシエイト、アカデミックの会員種別を設けている。
このコンソーシアムで行う技術開発は、10年以上先に固体酸化物電気化学デバイス高性能化のために必要となる革新技術で、民間企業が当面取り組むことが難しい、革新的な材料開発やセルスタック基盤技術を主として試行的に行うものである。
また研究開発には、オープンプラットフォームとクローズドプラットフォームを設けている。クローズドプラットフォームでは、各企業が必要とする開発を産総研と共同研究する。オープンプラットフォームでは、コストシェアの思想のもと、複数機関が参加し次の研究課題を共同研究する。
(1)革新材料プロジェクト
従来よりも表面反応速度が数倍速い革新材料(ヘテロ界面接合電極など)の開発、耐酸化レドックスや熱サイクルに強いロバスト電極材料の開発
(2)革新セルスタックプロジェクト
現状よりも数倍性能が高いSOFCセルスタックを実現するための先端技術の開発、高電流密度セルスタック、シール技術の開発
(3)技術シナリオ検討プロジェクト
目標となるSOFC普及台数やスタックコストとSOFC-SOEC技術の進展などを考慮した導入シナリオや、技術目標をバックキャストして現在必要な課題などを抽出する。
技術開発だけでなく、企業や大学の若手を育成する人材育成も視野に入れ、これらの分野の産業界と学術界とをつなぐインターフェースの役割も担う予定である。
また、外部への成果発信の機会として、年1回程度公開シンポジウムを開催する予定である。また、関連技術分野の人材育成として、企業の若手研究者や大学の学生向けセミナーなどを行う予定である。