国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地圏資源環境研究部門 地圏化学研究グループ高田 モモ 研究員、保高 徹生 研究グループ長、白井 浩介 招聘研究員は、大阪大学 村上 道夫 特任教授(常勤)、北海道大学 大沼 進 教授、東京大学 中谷 隼 講師、国立研究開発法人国立環境研究所 大迫 政浩 領域長、山田 一夫 フェローと共同で、福島第一原子力発電所事故後の除染による除去土壌等の福島県外最終処分の社会受容性に関するウェブアンケート調査を実施しました。
アンケート調査では、県外最終処分場を4属性(受け入れが決められた経緯(公正な手続き)、処分される物質の量と濃度、自分の住んでいる場所と処分場との位置関係、全国に設置される処分場の数(公正な分配))からなる選択肢で表現し、コンジョイント分析を実施しました。その結果、県外最終処分に際し、回答者は処分される物質の量や濃度に比べ、公正な手続きと公正な分配を重視することが明らかとなりました。県外最終処分は、全国の住民に受け入れられることが大切であることがわかります。
なお、この成果の詳細は、2022年06月22日(米国時間)に「PLOS ONE」に掲載されました。
2011年の福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質による汚染に対して、環境回復活動として、福島県を中心に大規模な除染作業が行われてきました。除染により福島県内で発生した約1330万m3の除去土壌や廃棄物の焼却灰(以後、除去土壌等とする)は、現在福島第一原子力発電所が立地する双葉町・大熊町にまたがる中間貯蔵施設に運ばれ、保管されています。これらの除去土壌等は、法律により2045年までに福島県外で最終処分されることが決まっています(中間貯蔵・環境安全事業株式会社法)。しかし、県外最終処分に関しては、その立地場所や処分方法だけでなく、合意形成プロセスや除去土壌等の減容化技術の適用の可否についても決まっていません。除去土壌等の県外最終処分の実施に向けては、処分方法や減容化などの技術的な検討だけでなく、社会受容性に関する知見が不可欠です。
産総研は、福島第一原子力発電所の事故による大規模環境災害への対応として、水中の放射性セシウムの迅速モニタリング技術の開発(2014年4月7日産総研プレスリリース発表)や、除染の費用と効果に関する研究(2013年6月4日 産総研主な研究成果発表)を推進し、被災地の復興に取り組んできました。今回、2045年の県外最終処分という残された課題に対して、社会受容性の評価を実施しました。なお、本研究の一部は、 JSPS 科研費18H04141 の助成および(株)太平洋コンサルタントから研究資金提供を受けています。
本研究では、福島県民を除く年齢や性別、地域を均等に割り付けた全国4000名を対象にウェブアンケートを実施し、除去土壌等の最終処分場の実施におけるいくつかの要因の相対的重要性をコンジョイント分析により明らかにしました。アンケートでは、最終処分場を4属性として(1)受け入れが決められた経緯(手続き的公正さ)、(2)処分される物質の量と濃度、(3)自分の住んでいる場所と処分場との距離・位置関係、(4)全国に設置される処分場の数(分配的公正さ)からなる選択肢で表現し、回答者は図1に例示するような2つの選択肢からより望ましい方を選択しました。
図1 アンケートにおける選択画面の例(左:回答者が比較する選択肢、右:回答欄)
その結果、図2に示すように回答者は居住地から遠い場所を選ぶだけでなく、受け入れが決められた経緯(手続き的公正さ)としてトップダウン型と比較して意見反映型を、全国に設置される処分場の数(分配的公正さ)として1ヶ所よりも46ヶ所を選ぶ傾向にあり、2種類の公正さ、特に分配的公正さを高く評価することがわかりました。一方で、処分される物質の量と濃度については、回答者の好みは示されませんでした。このことは、住民が身近な場所に最終処分場が計画されることに抵抗感を覚えることに加え、最終処分場の実施には公正さに配慮することが重要視されていることが示唆されます。
図2 除去土壌(n = 2000)および焼却灰(n = 2000)について各属性水準の選好。
4属性について、トップダウン型の受け入れ決定、処分物は大量・中濃度、処分場が地域内に立地、処分場は全国1か所に設置を参考値とし、黒丸で示す。
白抜きの丸は参考値と比べて統計的に有意な差があり(p < 0.05)、クロスは有意な差がないことを示している
これにより、回答者は最終処分場が居住地近くにできることだけでなく、回答者の居住地近くが全国唯一の処分場となることに否定的な反応を示すことがわかりました。負担の分担という視点を持ち複数か所で最終処分を検討することで、社会受容が高くなることが示唆されました。今後最終処分の立地を検討するうえで、回答者が重視したもう一つの公正さである手続き的公正さも加え、社会的な配慮が重要と言えます。一方で、複数の処分地の立地選定・建設するためには環境管理や合意形成に一層の注意を払う必要があります。手続き的公正さや分配的公正さ以外にも、環境安全性や外部環境負荷、費用を含めたさまざまな観点からの議論が必要です。
※本プレスリリースの図1と図2は原論文の図を引用・改変したものを使用しています。
今後は、社会受容性に関する研究を深化させるとともに、合意形成フレームワークに関する研究も推進します。
掲載誌:PLOS ONE
論文タイトル:Important factors for public acceptance of the final disposal of contaminated soil and wastes resulting from the Fukushima Daiichi nuclear power station accident
著者:Momo Takada, Kosuke Shirai, Michio Murakami, Susumu Ohnuma, Jun Nakatani, Kazuo Yamada, Masahiro Osako, Tetsuo Yasutaka