国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボ(ラボ長 保高徹生、以下「研究ラボ」という)は、日本サッカー協会(以下「JFA」という)と連携協定を締結し、スタジアムにおける感染予防対策の実施状況に関する調査・研究を推進している。
2021年12月の天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会準決勝・決勝の3試合(表1)は、最大収容人数に対して100%の定員で開催された。特に、決勝では57,785人の観客が観戦し、コロナウイルスの影響で観客数が制限がされてから、スポーツイベントで最も観客数が多い試合となった。これらの3試合において、表2に示すカメラによる撮影および画像認識の人工知能(AI)技術によるマスク着用率の解析、レーザーレーダーによる混雑分析、マイクロホンアレイによる音声調査・解析、スタジアム内のCO2濃度測定を実施したのでその調査結果を報告する。
AI技術を用いた画像認識から、試合中のマスク着用率を測定した。マスク着用率は、過去に実施したリスク評価において、スタジアムにおける感染リスク低減で最も重要な要素と評価されている。3試合平均のマスク着用率は、試合中(ハーフタイム以外)の平均で97.1%、ハーフタイム中で85.8%であり、2021年10月に実施した8試合のサッカーの結果と比較して高かった。
レーザーレーダーによる混雑分析の結果は、30,933人が観戦した埼玉スタジアムの準決勝では、試合後の帰宅時にスタジアム外では半径1 mにいる人数は、通過人数が最も多い時間においても3人であり、密な状況は確認されず、57,785人が観戦した決勝では、表彰式等のイベントや分散退場により、座席からの退場時間が分散された。マイクロホンアレイを用いて実施した音声調査とその解析の結果、試合開始から2時間の間の主な応援は拍手であり、試合時間全体に対して拍手の時間が占める割合は平均54.5%であった。ゴールやチャンスなどの場面での非意図的な声出し応援のそれは平均2.5%であった。また、一部の観客席でのみ、3%程度の時間割合で声出し声援(チャント)が確認された。
CO2濃度は、試合が行われた3の会場における計60か所での調査の結果、各試合の場所ごとの平均値は、観客席で463-486ppm、トイレで613-795ppm、コンコース他で498-623ppmといずれも1000ppmを下回った。
表2 実施した調査の内容
**観客席を撮影するカメラ画像は、個人が特定できない程度の解像度で取得し、個人の特定はしていない。また、マイクロホンアレイは、個々の音声ではなく喧騒の計測のために用い、個々の人の声についての音声認識や会話記録は行わない。なお、得られた画像や音声などの情報は、本研究用途以外に使用することはない。
新型コロナウイルス感染が続く中、安全にイベントを開催するには、どのような状況下で感染が広がるかのリスクを知ることは重要であり、社会的にも関心が持たれている。特にスタジアムのような大規模施設で開催するイベントには、一度に多くの観客が集まることから、入場者数、マスク着用の有無、混雑の程度、応援方法の違いなどが感染の広がりに影響する。産総研が過去に実施したリスク評価(Jリーグのスタジアムやクラブハウスなどで新型コロナウイルス感染予防のための調査(第三報))においては、マスク着用率がスタジアムにおける感染リスク低減で最も重要な要素であることがわかっている。これまで、産総研は、政府、JFA、Jリーグらと連携して、スタジアムやクラブハウスなどで新型コロナウイルス感染予防のための調査を実施してきた。また、2022年1月にはJFAと連携・協力に関する協定を締結し、スタジアム等での新型コロナウイルスの感染リスク低減に向けた協力の強化を進めている。
天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会の準決勝・決勝の3試合は、最大収容人数に対して100%の定員で開催された。決勝では57,785人(収容率約85%)の観客が観戦し、コロナウイルスの影響で観客の人数制限が課されてから、スポーツイベントで最も観客数が多い試合となった。このように、収容率が高く5万人を超える観客が入った条件で、さらに準決勝・決勝という観客の盛り上がりが想定される試合において、適切な対策が実施され、かつ観客の対策の遵守状況を確認することは、今後の感染予防対策の検討において貴重な情報となる。産総研は、JFAと連携し、これらの3試合において、感染予防対策の実施状況を評価するための調査を行った。
JFAと連携して、日本代表の試合等における新型コロナウイルス感染リスク評価、対策効果の評価の研究を進める。
本研究ラボは社会課題解決に向けて領域融合で研究開発を推進するバーチャルなラボである。今回の研究は主として、地圏資源環境研究部門 地圏化学研究グループ 保高徹生 研究グループ長、高田モモ研究員、人工知能研究センター社会知能研究チーム 大西 正輝 研究チーム長、坂東 宜昭 研究員、安全科学研究部門リスク評価戦略グループ 内藤 航 研究グループ長、篠原 直秀 主任研究員が担当した。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボ ラボ長
地圏資源環境研究部門 地圏化学研究グループ 研究グループ長
保高 徹生 E-mail:t.yasutaka*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボ 副ラボ長
人工知能研究センター 社会知能研究チーム 研究チーム長
大西 正輝 E-mail:onishi-masaki*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボ 副ラボ長
安全科学研究部門 リスク評価戦略グループ 研究グループ長
内藤 航 E-mail:w-naito*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)