国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)安全科学研究部門【研究部門長 緒方 雄二】リスク評価戦略グループ 篠原 直秀 主任研究員は、神社本庁【総長 田中恆清】と「変わらない祈りのために」キャンペーン事務局(埼玉県神社庁内)の協力を得て、規模の異なる3カ所の神社と埼玉県神社庁で換気回数の調査を行った。数カ所の窓もしくは扉を10~20cm程度開放すると、換気回数は木造建造物やプレハブでは1時間当たり2.4~25回、鉄骨や鉄筋建造物では1時間当たり0.7~4.5回であった。鉄筋建造物では機械換気システムや換気扇を稼働させると、窓閉切時の換気回数は1.0~1.6回に、鉄骨や鉄筋建造物では機械換気システムや換気扇を稼働させ、窓もしくは扉を開放すると換気回数は2.5~5.2回になった。また、測定直前までヒーターで室内を暖めていた神社の拝殿では、閉め切っていても1時間当たり換気回数は3.7回であった。
今回、実際の神社で換気回数を調査した結果は、一般住宅での換気回数の調査結果1)(窓開けや換気扇の稼働により換気回数増加)と同様の傾向を示していた。今回得られた結果は、初詣をはじめとした年中行事や祈祷時の参拝者、神符守札を授与する神職・巫女などが滞在する屋内環境での感染対策への貢献が期待される。
神社での換気調査の様子
新型コロナウイルス感染の終息が見えない中、3密(密集・密閉・密接)が生じやすい環境では、どのような対策をどの程度まで実施すれば良いかを知ることは重要で、社会的にも関心が高い。例年、多くの人が大みそかや新年に社寺に詣でているが、人が多く集まることによる新型コロナウイルスの感染リスクが懸念される。祈祷を行う拝殿や、繁忙期に臨時に神符守札などを授与するために設置される仮授与所では、3密が生じる可能性があるが、それらの施設での換気回数の調査例はない。
神社境内の屋内環境の換気の状況や、窓開けや機械換気の稼働などの対策の効果を客観的な数値で示すため、産総研は、神社本庁と「変わらない祈りのために」キャンペーン事務局の協力を得て、規模の異なる神社で、拝殿や仮授与所などの施設での換気回数を調査した。
今回、埼玉県神社庁、氷川神社、一山神社、久伊豆神社で、各種条件下での換気回数をCO2濃度減衰法により推定した。建造物屋内にCO2を噴霧し、ブロワーでCO2濃度を均一にしてから、CO2濃度の時間変化を、室内に数カ所設置したCO2測定器で計測した(図1)。CO2測定器の設置高さは立位と座位を想定して、それぞれ床面から150cmと70cmとした。一部の建物では、床面から5cmのCO2濃度も測定した。得られたCO2濃度の時間変化(例えば図2)から換気回数を推定し、室内数ヶ所の床面から150cmと70cmでの換気回数の平均をそれぞれの建築物の条件ごとの換気回数とした。
図1 測定準備中、測定中の様子(左・中図:氷川神社、右図:久伊豆神社)
暖房・ヒーターを付けていない場合、窓や扉の閉切時の換気回数は、木造建造物やプレハブでは1時間当たり0.18~0.68回、鉄骨や鉄筋建造物では1時間当たり0.084~0.58回であった。これらの建造物において、数か所の窓もしくは扉を10~20cm程度開放すると、換気回数はいずれにおいても8倍以上と大きく増加した(図3-5)。一方、測定中以外ヒーターを稼働させて室温が高かった(室内外温度差11℃)久伊豆神社では、閉め切った状態でも換気回数は1時間当たり3.7回であった(図6)。また、室内外の温度差が大きくない場合、機械換気システムや換気扇を稼働させると、窓や扉の閉切時の鉄筋建造物での換気回数は1.0~1.6回に、窓や扉の開放時の鉄骨・鉄筋建造物での換気回数は2.5~5.2回に増加した(図3,5)。また、テントは、4面が閉じられていても1時間当たり20回以上の換気回数が確認された(図6)。
図2 埼玉県神社庁の神殿内のCO2濃度の時間変化
(窓開放・機械換気設備稼働の場合)
青丸は実測結果、赤線はフィッティングの指数関数曲線を示す。
図3 埼玉県神社庁での換気回数
図4 氷川神社での換気回数
図5 一山神社での換気回数
図6 久伊豆神社での換気回数
今回の調査は、実際の神社境内にある建物で換気量を実験的に計測したことに意義がある。今回得られた結果は、初詣をはじめとした年中行事や祈祷時の参拝者や、神符守札を授与する神職・巫女などが滞在する屋内環境での感染対策への貢献が期待される。
室内で暖房やヒーターを稼働させて、室内外に温度差を付けると換気回数が増大したことから、その効果について追加で検証することを検討している。
前回の試験の結果を受けて、扉開けの面積の違いと室内外温度差の違いが換気回数にどの程度影響するかを調査した。
扉開け面積および室内外温度差を変化させて、換気回数をCO2濃度減衰法により推定した。建造物屋内にCO2を噴霧し、ブロワーでCO2濃度を均一にしてから、CO2濃度の時間変化を、室内に数カ所設置したCO2測定器で計測した。CO2測定器の設置高さは立位と座位を想定して、それぞれ床面から150cmと70cmと5cmとした。得られたCO2濃度の時間変化から換気回数を推定し、室内数ヶ所の床面から150cmと70cmでの換気回数の平均をそれぞれの建築物の条件ごとの換気回数とした。試験は、2020年12月9日に実施した。測定した拝殿の床面積は112.45m2、天井高さは3.45mである。
換気回数は、室内外温度差や扉開け面積に比例して増加した。ヒーターや暖房を稼働させない場合と比べて、ヒーターや暖房を稼働せることにより換気回数は3倍になった。また、扉を閉め切った場合と比べて、8枚の扉を5 cmずつ開けると、換気回数は4倍になった。
図 換気回数と室内外温度差(右図)と扉開け面積(左図)との関係
(高さ150cmおよび70㎝における平均)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
安全科学研究部門 リスク評価戦略グループ
主任研究員 篠原 直秀 E-mail:n-shinohara*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
1) N. Shinohara,T. Kataoka,K. Takamine,M. Gamo. (2011). Distribution and variability of the 24-h average air exchange rates and interzonal flow rates in 26 Japanese residences over 5 seasons. Atmospheric Environment, 45 (21): 3548-3552.