国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)エネルギー化学材料オープンイノベーションラボラトリ【研究ラボ長 徐 強】(以下「ChEM-OIL」という) 陳 致堯 研究員、窪田 啓吾 主任研究員らは、国立大学法人 京都大学 【総長 山極 壽一】 (以下「京大」という) エネルギー化学研究科 松本 一彦 准教授らとともに、充放電による劣化を抑制した亜鉛空気二次電池用電解質を開発した。
塩化亜鉛濃度を限界まで濃くした塩化亜鉛水和物溶融塩を液体電解質として用いることで、揮発性と二酸化炭素の吸収を抑えた。これにより、高容量・長寿命の亜鉛空気二次電池の実現へ貢献が期待される。
なお、この技術の詳細は、Advanced Energy Materialsに2019年4月16日に掲載された。
最近、軽量で大容量の次世代蓄電池として亜鉛空気電池が注目を集めている。特に亜鉛の経済性と安全性、空気電池の軽さを生かしたモバイル機器やドローンなどへの利用が期待されている。しかし、これまでの亜鉛空気電池の電解質は水溶液のため、水が揮発して電解質が劣化すること、またアルカリ性であるため、空気中の二酸化炭素との反応で酸化亜鉛が生じて、電極の性能を低下させること、さらに負極では充電時に問題となる樹枝状突起物であるデンドライトが発生すること、などの問題があった。
産総研は次世代蓄電池の開発の一環として、電池用新規材料の研究開発に取り組んできた。今回、各種電池の電解質について広い知見を持つ京大による電解質の物性測定の協力を得て、安全で高容量という利点から補聴器などの一次電池として使用されている亜鉛空気電池を二次電池として利用するための材料開発に取り組んだ。
今回、電解質に高濃度の塩化亜鉛水溶液である塩化亜鉛水和物溶融塩を用いた。これは酸性なので、二酸化炭素と反応しない。また、塩化亜鉛の濃度を室温で液体である限界まで濃くしたので揮発性が抑制され、同時にデンドライト形成も抑制された。この電解質を用いることで高寿命の亜鉛空気二次電池を実現できた。
図1に塩化亜鉛水溶液の分子配位の濃度依存性を示す。水和物溶融塩(図中ピンク)では全ての水分子が亜鉛イオンに配位するため揮発性と加水分解性が抑制される。通常、水と接した亜鉛金属は水と反応して酸化亜鉛や水酸化亜鉛の被膜を形成して電池過電圧を増大させる要因となるが、この電解質中では水分子は全て亜鉛イオンに配位するため亜鉛金属との反応性が抑えられ、被膜が形成されにくく作動電圧を向上させることができる。
|
図1 亜鉛イオンにおける水分子配位の濃度依存性 |
アルカリ水溶液を電解質として使用した亜鉛空気二次電池は初回から数回の放電効率は100 %であるが、その後急激に効率が低下する(図2青)。充放電5回目では初回の20 %以下の容量しか発揮できない。一方、図2赤に示す塩化亜鉛水和物溶融塩を用いた電池は初回から10回目までほとんど充放電効率が変化せず、また電圧も低下しない。二酸化炭素との反応抑制や、揮発性とデンドライト形成の抑制により電極の劣化を防止できため、亜鉛空気二次電池が長寿命化したと考えられる。
|
図2 アルカリ水溶液、塩化亜鉛水和物溶融塩を用いた亜鉛空気二次電池の充放電効率 |
今後は、新規空気極触媒の開発により、高エネルギー密度、さらに長寿命な亜鉛空気二次電池の開発を目指す。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
産総研・京大 エネルギー化学材料オープンイノベーションラボラトリ
ラボ長 徐 強 q.xu*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
産総研・京大 エネルギー化学材料オープンイノベーションラボラトリ
主任研究員 窪田 啓吾 keigo-kubota*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)