国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)は、2018年4月に、独フラウンホーファー研究機構 太陽エネルギーシステム研究所(以下「Fraunhofer ISE」という)と米国国立再生可能エネルギー研究所(以下「NREL」という)と合同で「The Terawatt Workshop」(以下「ワークショップ」という)を開催しました。テラワット(1012ワット=10億キロワット)単位の太陽光発電が普及する時代の到来に備えて日独米による共同のステートメントを発表しました。
その後、3研究機関を中心にワークショップでの議論を論文としてまとめました。この論文が2019年5月31日付のScience誌へ掲載されました。論文のタイトルは「Terawatt-scale photovoltaics: Transform global energy」で、今後の世界の太陽光発電の普及ペースの目安や課題を提示しています(図1)。
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図1 世界のエネルギー需要と電力需要の見通し、太陽光発電が貢献できる割合の目安
熱や運輸などの電化で活用の余地が広がり、排出量削減もより容易になる。 |
再生可能エネルギーによる電力は、世界のエネルギー経済を変革しつつあります。その中でも太陽光発電は、研究や製造技術の大きな進展によって、世界各地でコスト競争力に優れた電力源になっています。2016年末に約230 ギガワット(GW)(1 GW=100万 キロワット)だった世界の太陽光発電累積導入量は2018年末で約500 GWと2倍以上になりました。同時に太陽電池モジュールの平均価格は2年前の著者らの予測よりもはるかに安くなり、2018年末の時点で定格出力あたりの単価は0.25米ドル/ワットを切りました。(これは日本の条件に直せば、1キロワット時(kWh)あたり1.4円以下1に相当します)。これにより太陽光発電は、世界の多くの地域で既に最も安価な電力源になっているか、間もなく最も安価になりそうな状況になっています(図2)。
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図2:日米独の平均的な太陽光発電のコストの例
データの詳細は論文を参照。いずれも急激に低減している。 |
太陽光発電は風力発電と共に、出力が変動することで知られています。特に太陽光発電は晴れた昼間に集中して発電するため、そのままでは導入量増加に伴って価値が減少します。電力供給量に占める割合が現状程度ならば、太陽光発電の特性に合わせて需要をシフトさせたり、既存の他の電力源や太陽光発電そのものの出力を調整したりすることで価値を保(たも)てることは、米国カリフォルニア州などで実証されています。一方、今後さらに太陽光発電の普及が進むのに伴い、既存の対策をより低コストに行うだけでなく、関連するさまざまな技術の開発・普及を進める必要性が増してきます。本論文では今後注力が必要になる課題として、公的機関、企業、行政府やシンクタンクなどの持つデータや見解を集約した結果、下記のような事項を挙げています。
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電力系統への組み込み…広域で出力をまとめて取り扱うことによるならし効果の活用、気象予報などに基づく出力予測、既存電力源の柔軟性の向上、需要の制御、太陽光発電側からの電圧・周波数などの調整機能や系統事故対応能力の提供
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蓄電
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運輸・熱・工業などでの電化の促進
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電力による燃料や化学製品の製造促進
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太陽光発電自体の技術開発と普及…コスト低減の継続、さらなる長寿命化と信頼性向上、利用環境の多様化への対応、リサイクルの促進、投資環境の整備など
その上で本論文では、太陽光発電で2050年までに世界全体のエネルギー需要の1~5割ぐらいを供給できる可能性を指摘しています(図1)。
本論文で挙げたような挑戦的な課題への対応を進めることで、世界のエネルギー供給体制を持続的なものに変革していくにあたり、太陽光発電が決定的な役割を果たせるものと考えられます。本論文はその際の普及ペースの一つの目安となると共に、関連するさまざまな分野における研究開発方針策定の助けになるものと期待されます。
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図3 第2回テラワットワークショップ参加者の集合写真 |
環境とエネルギーの2つの持続可能性を両立することは、全世界的な要請であり、挑戦的な課題です。太陽光発電はこれに対して、重要な役割を担える技術です。太陽光発電は、程度の違いこそあれ、世界中の全ての地域で環境、経済性、エネルギー安定供給の点で優位性を発揮し始めています。過去10年間の太陽光発電の飛躍的な進展は世界中に大きなサプライズとしてとらえられています。太陽光発電の発電コストの大幅な低減が進むなか、多様化するエネルギーシステムの中で太陽光発電の価値をさらに高めることが重要です。太陽光発電がエネルギーの中心的役割を担うことによって、単によりクリーンであるというだけでなく、安全・低コストで信頼できる持続可能なエネルギーシステムへの変革が加速されると考えられます。
産総研、Fraunhofer ISE、NRELの3研究機関は、これらの国際的な挑戦課題に取り組んでいます。2016年3月に第1回のテラワットワークショップがドイツのフライブルグで開催され、その成果としてステートメントの内容が日独米共同で公表されるとともに、議論や解析結果がScience誌に論文として掲載されました。
(参照:N. M. Haegel et al., “Terawatt-scale photovoltaics: Trajectories and challenges”, Science 14 Apr 2017: Vol. 356, Issue 6334, pp. 141-143)
今回の論文は、その続編となるものです。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
太陽光発電研究センター モジュール信頼性チーム
主任研究員 櫻井 啓一郎 k-sakurai*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)