発表・掲載日:2018/11/01

四国に残された日本列島5億年の歴史

-20万分の1地質図幅「高知」(第2版)を刊行-

ポイント

  • 20万分の1地質図幅「高知」を約60年ぶりに全面改訂
  • 最新の地質研究の成果、地質年代などの報告を網羅
  • カンブリア紀から第四紀の日本列島形成史解明への貢献に期待


概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センターは、地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】層序構造地質研究グループ 原 英俊 上級主任研究員らによって約60年ぶりに再編さんされた20万分の1地質図幅「高知」を第2版として刊行した。

20万分の1地質図幅「高知」の範囲を含む四国地方は、海洋プレートが大陸プレート(大陸地殻)に沈み込んで形成された地質からなる。20万分の1地質図幅「高知」初版刊行(1959年)から約60年の間に、付加体の形成や変成作用・火成作用のメカニズムの解明など、四国地方の地質研究が飛躍的に進んだ。また、カンブリア紀から第四紀にいたる地質が認められ、四国だけではなく日本列島形成に関する情報も凝縮されている。 20万分の1地質図幅「高知」(第2版)は、最新の地質研究の成果に基づいた地質図であり、初版に比べて地質の種類を示す凡例数は、約40から160種類へと大幅に増えた。日本列島の地質標準となりうる地域であり、学術研究のみならず地学教育の基礎資料としての利活用が期待される。この図幅は、産総研が提携する委託販売先(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guide.html)から入手できる。

概要図
20万分の1地質図幅「高知」の初版(左上)と第2版(右下)


研究の社会的背景

地質図幅は、地盤や地層の様子を表した図で、資源開発や防災、土木・建設、地球環境対策など幅広い分野で基礎資料として必要とされている。20万分の1地質図幅は、地層・岩体・火山・断層・鉱床などの分布が示され、広域の地質構造や地史を知るための資料として重要で、既存の地質図幅の編さんと野外調査を基に作製される。2009年度に北方領土を除く日本全国の20万分の1地質図幅が整備され、2010年度からは出版年度の古い地質図幅の改訂が行われている。

2000年以降、20万分の1地質図幅「高知」の範囲で、5万分の1地質図幅の「伊野」(2007年)、「日比原」(2009年)、「新居浜」(2013年)が、また近隣の地域では、20万分の1地質図幅「岡山及丸亀」(2002年)、「窪川」(2006年)、「松山」(第2版、2016年)、5万分の1地質図幅「北川」(2014年)、「観音寺」(2017年)が相次いで発行された。そのため1959年に刊行された初版の「高知」に、最新の地質情報を反映させて、早急に改訂を行う必要があった。

研究の経緯

四国地方は、主に海洋プレートが大陸プレートに沈み込む環境(沈み込み帯)で形成されており、世界でも非常にまれな複雑な地質の地域である。特に、この沈み込み帯では、地下浅部で付加体が、地下深部では変成岩深成岩が、さらに表層では浅海成層とマグマの噴出による火山岩が形成される(図1)。1980年代以降、放散虫化石や放射年代により地質年代が相次いで決定され、プレート運動による沈み込み帯の理解は大きく進展した。そこで最近整備された5万分の1地質図幅などを基に、20万分の1地質図幅「高知」の改訂を行い、第2版として刊行した。

図1
図1 沈み込み帯の模式断面図

研究の内容

20万分の1地質図幅「高知」の地域には、主に海洋プレートが大陸プレートに沈み込むことによって形成された付加体や変成岩が広く分布する(図2)。またカンブリア紀(約5億年前)から第四紀まで、幅広い年代を示す地質が分布する(図3)。放散虫化石や放射年代によって地質年代が決定され、沈み込み帯での付加体や変成岩の形成や火成作用のメカニズムなど、地質研究が飛躍的に進んだ地域である。

図2
図2 20万分の1地質図幅「高知」の概略

図3
図3 20万分の1地質図幅「高知」の地質を総括した図

この地域に分布する地質の概要と地史を、以下のようにまとめた。

日本列島の基盤をなす中・古生代の地質が、黒瀬川帯と呼ばれる細長く伸びた地帯に分布している(図2)。この地質は、オルドビス紀~シルル紀(約4.9~4.2億年前)と石炭紀~前期ペルム紀(約3.6~2.7億年前)の深成岩類・変成岩類(変成作用を受ける前の元の岩石である原岩の年代としてカンブリア紀を含む)、シルル紀~ジュラ紀(約4.4~1.5億年前)の浅海成堆積物からなり、これらの岩石が蛇紋岩やペルム紀の付加体中に取り込まれている。

また、中期~後期ペルム紀(約2.7~2.5億年前)やジュラ紀~始新世(約2億~3400万年前)の付加体が認められ、この地域の南半分を占める(図2)。三畳紀を除く長期間にわたり、ほぼ連続的に海洋プレートの沈み込みが起きていたことがわかる。そして付加体は、岩相や地質年代に基づき、16の層序単元(ユニット)に区分される(図3)。

主に後期白亜紀(約1億~6500万年前)には、海洋プレートの沈み込みに伴って、大規模な火成作用と変成作用が生じ、形成された深成岩と変成岩は、領家(りょうけ)深成変成コンプレックスと三波川(さんばがわ)変成コンプレックスと呼ばれ、この地域の北半分に広く分布する(図2)。領家深成変成コンプレックスは、ジュラ紀の付加体を原岩とし、高温型変成作用によって形成された高温型変成岩と、これに貫入する深成岩からなる。一方、三波川変成コンプレックスは、主に後期白亜紀の付加体を原岩とし、高圧型変成作用によって形成された高圧型変成岩からなる(図3)。超高圧変成作用であるエクロジャイト相変成作用の痕跡を残す変成岩も認められた。またこの時期には、汽水成~浅海成堆積物からなる物部川(ものべがわ)層群・南海層群・外和泉(そといずみ)層群・和泉層群が広く堆積した(図2)。

中新世(約2300~500万年前)には、この地域の北西部に久万(くま)層群と石鎚(いしづち)層群と呼ばれる火砕岩類と火成岩類が堆積した。また一部では、カルデラ(石鎚コールドロン)が認められる(図2)。

第四紀(一部鮮新世を含む;約300万年前~現在)には、海浜ないし河川成堆積物、段丘堆積物、沖積層が、太平洋沿岸や瀬戸内沿岸や主要な河川沿い、またこの地域の北部を横断する中央構造線に沿った丘陵地などで発達した。

上記の地質の詳細な分布のほか、活断層や地下資源、また重力異常などの応用地質学的・資源地質学的情報も地質図上に示した。太平洋沿岸は、今後30年以内に東南海地震に見舞われる確率が高いと考えられている。また中央構造線活断層系は、活動度の高い活断層である。そのため、20万の1地質図幅「高知」(第2版)は、国や地方自治体による防災・減災計画や都市計画などに利活用されることが期待される。加えて、ジオパークを中心とする観光産業や、地学教育での利活用も進むものと想定される。

今後の予定

四国では、20万分の1地質図幅「高知」の東隣にあたる20万分の1地質図幅「剣山」の初版刊行が1969年と古く、「高知」と同様に改訂を進める。20万分の1地質図幅の改訂を進めると共に、その成果を20万分の1シームレス地質図(https://gbank.gsj.jp/seamless/v2.html)に反映させ、精度の高い地質情報のウェブ発信を行う。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
地質情報研究部門 層序構造地質研究グループ
上級主任研究員  原 英俊  E-mail:hara-hide*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)



用語の説明

◆付加体
海洋プレートが海溝で大陸プレートの下に沈み込む際に、海洋プレートの上の堆積物や海山の断片などが剝ぎ取られ、海溝にたまった砂や泥と一緒になって、陸側に押し付けられてできた岩石・地層群。日本列島の太平洋側には、この付加体が広く分布する。[参照元へ戻る]
◆変成岩
元の岩石が温度・圧力による変成を受け(変成作用)、その組織と鉱物組成が固体のまま新たに再構成されてできた岩石。地殻の内部では、温度と圧力が高い状態になっている。変成する温度と圧力の違いにより、高温型変成岩と高圧型変成岩がある。[参照元へ戻る]
◆深成岩
マグマが地下深くでゆっくりと冷えて固まってできた岩石。完晶質(マグマが完全に結晶化した状態)で、鉱物の粒径が大きいことと、その粒径がそろった等粒状組織が特徴である。代表的なものに、花こう岩や花こう閃緑(せんりょく)岩、斑れい岩があり、石材として広く用いられている。[参照元へ戻る]
◆放散虫
ガラス質の骨格をもつ動物性プランクトンの一種。カンブリア紀以降現在まで世界中の海洋域に生息する。その化石は、地質年代を決定するのに有効である。径数100 μm以下と極小のため、顕微鏡や電子顕微鏡などを使って観察する。1980年代以降、薬品を使って岩石を溶解させ放散虫化石を取り出す技術が確立され、付加体の堆積年代が次々と明らかになり、飛躍的に研究が進展した。[参照元へ戻る]
◆放射年代
鉱物に含まれる放射性元素が、放射性壊変(不安定な原子核が放射線を出して安定した原子核に変化すること)を引き起こす時間を利用して求めた年代。ウラン-鉛(U–Pb)法やカリウム-アルゴン(K–Ar)法などによって、付加体や変成岩の堆積年代や変成年代、深成岩の固結年代や冷却年代が明らかとなった。[参照元へ戻る]
◆火成作用
地下深部でのマグマの生成、貫入、冷却、固結、また地表付近での噴出など、マグマに関する一連の地質現象の総称。地下深部で固まった深成岩、地表に噴出した火山岩に分けられる。 [参照元へ戻る]
◆蛇紋岩
上部マントルを構成するかんらん岩が水と反応してできた岩石。表面がなめらかで、また蛇の様な模様を示すことから蛇紋岩と名付けられた。日本の主要な地質構造線に沿って特徴的に分布する。マグネシウムや鉄、クロムなどを含み、工業原料や肥料としても利用される。[参照元へ戻る]
◆カルデラ、コールドロン
カルデラは、大規模な火山活動によってできた大きなくぼ地状の地形や陥没構造を指す。日本列島には、阿蘇カルデラなど多数のカルデラが認められる。地形的な特徴が明らかな場合はカルデラと呼ばれ、削剝・侵食されカルデラ地形が失われている場合はコールドロンと呼ぶのが一般的である。[参照元へ戻る]
◆中央構造線
長さ1000 kmに及び、日本列島の地質を二分する巨大な断層(帯)である。ジュラ紀末から白亜紀の初め(約1.4~1億年前)にその原形が形成され、現在でも活断層として活動している領域が多くある。[参照元へ戻る]