国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センターは、地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】層序構造地質研究グループ 原 英俊 上級主任研究員らによって約60年ぶりに再編さんされた20万分の1地質図幅「高知」を第2版として刊行した。
20万分の1地質図幅「高知」の範囲を含む四国地方は、海洋プレートが大陸プレート(大陸地殻)に沈み込んで形成された地質からなる。20万分の1地質図幅「高知」初版刊行(1959年)から約60年の間に、付加体の形成や変成作用・火成作用のメカニズムの解明など、四国地方の地質研究が飛躍的に進んだ。また、カンブリア紀から第四紀にいたる地質が認められ、四国だけではなく日本列島形成に関する情報も凝縮されている。 20万分の1地質図幅「高知」(第2版)は、最新の地質研究の成果に基づいた地質図であり、初版に比べて地質の種類を示す凡例数は、約40から160種類へと大幅に増えた。日本列島の地質標準となりうる地域であり、学術研究のみならず地学教育の基礎資料としての利活用が期待される。この図幅は、産総研が提携する委託販売先(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guide.html)から入手できる。
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20万分の1地質図幅「高知」の初版(左上)と第2版(右下) |
地質図幅は、地盤や地層の様子を表した図で、資源開発や防災、土木・建設、地球環境対策など幅広い分野で基礎資料として必要とされている。20万分の1地質図幅は、地層・岩体・火山・断層・鉱床などの分布が示され、広域の地質構造や地史を知るための資料として重要で、既存の地質図幅の編さんと野外調査を基に作製される。2009年度に北方領土を除く日本全国の20万分の1地質図幅が整備され、2010年度からは出版年度の古い地質図幅の改訂が行われている。
2000年以降、20万分の1地質図幅「高知」の範囲で、5万分の1地質図幅の「伊野」(2007年)、「日比原」(2009年)、「新居浜」(2013年)が、また近隣の地域では、20万分の1地質図幅「岡山及丸亀」(2002年)、「窪川」(2006年)、「松山」(第2版、2016年)、5万分の1地質図幅「北川」(2014年)、「観音寺」(2017年)が相次いで発行された。そのため1959年に刊行された初版の「高知」に、最新の地質情報を反映させて、早急に改訂を行う必要があった。
四国地方は、主に海洋プレートが大陸プレートに沈み込む環境(沈み込み帯)で形成されており、世界でも非常にまれな複雑な地質の地域である。特に、この沈み込み帯では、地下浅部で付加体が、地下深部では変成岩や深成岩が、さらに表層では浅海成層とマグマの噴出による火山岩が形成される(図1)。1980年代以降、放散虫化石や放射年代により地質年代が相次いで決定され、プレート運動による沈み込み帯の理解は大きく進展した。そこで最近整備された5万分の1地質図幅などを基に、20万分の1地質図幅「高知」の改訂を行い、第2版として刊行した。
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図1 沈み込み帯の模式断面図 |
20万分の1地質図幅「高知」の地域には、主に海洋プレートが大陸プレートに沈み込むことによって形成された付加体や変成岩が広く分布する(図2)。またカンブリア紀(約5億年前)から第四紀まで、幅広い年代を示す地質が分布する(図3)。放散虫化石や放射年代によって地質年代が決定され、沈み込み帯での付加体や変成岩の形成や火成作用のメカニズムなど、地質研究が飛躍的に進んだ地域である。
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図2 20万分の1地質図幅「高知」の概略 |
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図3 20万分の1地質図幅「高知」の地質を総括した図 |
この地域に分布する地質の概要と地史を、以下のようにまとめた。
日本列島の基盤をなす中・古生代の地質が、黒瀬川帯と呼ばれる細長く伸びた地帯に分布している(図2)。この地質は、オルドビス紀~シルル紀(約4.9~4.2億年前)と石炭紀~前期ペルム紀(約3.6~2.7億年前)の深成岩類・変成岩類(変成作用を受ける前の元の岩石である原岩の年代としてカンブリア紀を含む)、シルル紀~ジュラ紀(約4.4~1.5億年前)の浅海成堆積物からなり、これらの岩石が蛇紋岩やペルム紀の付加体中に取り込まれている。
また、中期~後期ペルム紀(約2.7~2.5億年前)やジュラ紀~始新世(約2億~3400万年前)の付加体が認められ、この地域の南半分を占める(図2)。三畳紀を除く長期間にわたり、ほぼ連続的に海洋プレートの沈み込みが起きていたことがわかる。そして付加体は、岩相や地質年代に基づき、16の層序単元(ユニット)に区分される(図3)。
主に後期白亜紀(約1億~6500万年前)には、海洋プレートの沈み込みに伴って、大規模な火成作用と変成作用が生じ、形成された深成岩と変成岩は、領家(りょうけ)深成変成コンプレックスと三波川(さんばがわ)変成コンプレックスと呼ばれ、この地域の北半分に広く分布する(図2)。領家深成変成コンプレックスは、ジュラ紀の付加体を原岩とし、高温型変成作用によって形成された高温型変成岩と、これに貫入する深成岩からなる。一方、三波川変成コンプレックスは、主に後期白亜紀の付加体を原岩とし、高圧型変成作用によって形成された高圧型変成岩からなる(図3)。超高圧変成作用であるエクロジャイト相変成作用の痕跡を残す変成岩も認められた。またこの時期には、汽水成~浅海成堆積物からなる物部川(ものべがわ)層群・南海層群・外和泉(そといずみ)層群・和泉層群が広く堆積した(図2)。
中新世(約2300~500万年前)には、この地域の北西部に久万(くま)層群と石鎚(いしづち)層群と呼ばれる火砕岩類と火成岩類が堆積した。また一部では、カルデラ(石鎚コールドロン)が認められる(図2)。
第四紀(一部鮮新世を含む;約300万年前~現在)には、海浜ないし河川成堆積物、段丘堆積物、沖積層が、太平洋沿岸や瀬戸内沿岸や主要な河川沿い、またこの地域の北部を横断する中央構造線に沿った丘陵地などで発達した。
上記の地質の詳細な分布のほか、活断層や地下資源、また重力異常などの応用地質学的・資源地質学的情報も地質図上に示した。太平洋沿岸は、今後30年以内に東南海地震に見舞われる確率が高いと考えられている。また中央構造線活断層系は、活動度の高い活断層である。そのため、20万の1地質図幅「高知」(第2版)は、国や地方自治体による防災・減災計画や都市計画などに利活用されることが期待される。加えて、ジオパークを中心とする観光産業や、地学教育での利活用も進むものと想定される。
四国では、20万分の1地質図幅「高知」の東隣にあたる20万分の1地質図幅「剣山」の初版刊行が1969年と古く、「高知」と同様に改訂を進める。20万分の1地質図幅の改訂を進めると共に、その成果を20万分の1シームレス地質図(https://gbank.gsj.jp/seamless/v2.html)に反映させ、精度の高い地質情報のウェブ発信を行う。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
地質情報研究部門 層序構造地質研究グループ
上級主任研究員 原 英俊 E-mail:hara-hide*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)