発表・掲載日:2018/10/18

石垣島、宮古島などを襲った1771年八重山巨大津波の発生原因を解明

-詳細な海底地形データの解析により大規模海底地すべりを発見-

ポイント

  • 琉球(南西諸島)海溝に沿った斜面に、東京都全体に匹敵する大規模な海底地すべりの痕跡を発見
  • 数値計算により、この海底地すべりが八重山巨大津波の原因である可能性が高いことを示した
  • 同規模の津波発生は先島諸島に限られ、他の南西諸島では巨大津波の可能性は低いと予測


概要

石垣島、宮古島などを中心に約1万2千人の犠牲者を出した1771年八重山巨大津波の発生原因は、プレート沈み込み境界で発生した地震、活断層、海底地すべりなど、いくつかの説が提案されてきたが、結論は出ていなかった。そのため、同じような巨大津波が沖縄本島をはじめとする他の南西諸島でも発生する可能性があるのかどうかは不明であった。

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門、海上保安庁 海洋情報部、国立研究開発法人 建築研究所、東北学院大学の研究チームは、石垣島と宮古島の南方沖で新たに得られた詳細な海底地形データや海底地質構造データの解析を行い、琉球(南西諸島)海溝沿いの斜面に長さ80 km以上、幅30 km以上の非常に大規模な海底地すべりを発見した。数値計算によって、この大規模な海底地すべりから発生する津波の高さが1771年八重山津波の津波高に匹敵することを再現できた。さらに、この大規模地すべりの発生に巨大な横ずれ断層が関与したことを示した。この成果によって、石垣島や宮古島周辺では今後も巨大津波が繰り返し発生する可能性があるが、同規模の巨大津波が他の南西諸島で発生する可能性は低いと推定される。この地域の津波の想定や防災対策に対して重要な指針を与えることが期待される。

この成果は、英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載された(オンライン掲載日:2018年9月11日)。

概要図
八重山津波発生原因の概念図


研究の社会的背景

2011年3月11日に東日本の太平洋沿岸が巨大津波による甚大な被害を受けたことによって、日本列島沿岸に発生しうる巨大津波に対する関心が高まり、過去に発生した巨大地震や津波に関する歴史記録・津波堆積物などの研究結果や、海底のプレート境界や活断層の調査結果に基づいた最大クラスの津波を想定する作業が国などによって進められてきた。すでに、南海トラフ、日本海溝、千島海溝、日本海沿岸では最大クラスの津波の想定が公表されたか、あるいはそのための検討が進められている。一方、南西諸島では1771年の八重山津波が石垣島で最大波高30 m程度に達したことや、1911年に喜界島近海でマグニチュード8の地震が発生したこと以外は、巨大津波や巨大地震の発生が知られていない。これらの津波や地震の発生メカニズムについても不明な点が多く、南西諸島全体の将来の巨大津波を想定するための情報が不十分であった。

研究の経緯

石垣島や宮古島などを含む先島諸島の海岸では過去に津波によって運搬された直径10 m以上のサンゴ塊(津波石と呼ぶ)が分布し、繰り返し巨大津波に襲われたことが知られている。一方、沖縄本島や奄美大島では同様の津波石は認められず、過去に津波が発生した証拠が存在しない。さらに、南西諸島の地殻変動や地震観測でも、琉球海溝で沈み込むフィリピン海プレートが琉球弧と広い範囲で固着してひずみを蓄積している明確な証拠は発見されていないことから、1771年八重山津波の発生原因として、プレートの沈み込み境界で発生する地震説や、それより浅部の斜面に発達する活断層や海底地すべりの同時発生説など、異なるメカニズムが提案されてきたが、結論は出ていない。

産業技術総合研究所は日本周辺海域の海底地質図の整備を行ってきた。また、海上保安庁海洋情報部は、南西諸島海域の地形・地質構造を解明するため、2008年より大規模な海底地形と海底地質構造の調査を実施してきた。両機関は海底地質や活断層に関する共同研究契約を結び、研究を推進してきた。南西諸島については、地質構造を解明するため、2016年に産業技術総合研究所が海上保安庁海洋情報部からデータの提供を受け、主に地質構造の解析を行い、成果を公表してきた。その過程で、1771年八重山津波の発生原因が巨大海底地すべりである可能性を見いだし、建築研究所と東北学院大学が数値計算による津波の再現に取り組んだ(図1)。

図1
図1 石垣島、宮古島周辺の巨大津波の発生原因となった海底地すべりの位置
紫の点線が、1771年八重山巨大津波が押し寄せた海岸を示す。黄色の点線で囲まれた範囲が、津波を発生させた海底地すべり域。赤線は海底地すべりの原因を作った横ずれ断層。図2の範囲を白点線の長方形で示す。

研究の内容

石垣島を含む先島諸島の南方沖約100 kmには水深が6000 mに達する琉球(南西諸島)海溝が東西方向に連続し、その陸側に幅約50 kmの東西方向に伸びる隆起帯(山頂の水深が3000 m程度)が発達している。海底地形データの解析から、その隆起帯が石垣島の南方沖で突然消滅し、長さ約80 km、幅約30 kmの凹地が発達していることが明らかになった(図2)。その凹地の北縁(北側)に沿って急斜面が連続し、隆起帯が南に向かって崩壊して形成された円弧地すべり地形に似ていることを見いだした。さらに、凹地を横断する反射法地震探査断面には、凹地の北縁から地下に伸びる円弧状のすべり面の存在が推定された。この地形や地質構造に関するデータに基づいて、凹地全体が南に向かって地すべりを起こして発生する津波の波高を計算すると、1771年八重山津波の津波高をおおよそ再現できた。この地すべり地形の西側には隆起帯を斜めに横切る横ずれ断層帯が発達しているが、その活動によって隆起帯の斜面下部が取り除かれ、陸側の斜面が不安定になって、隆起帯に大規模な崩壊が発生したと推定した(図3)。このような大規模な海底地すべりは、南西諸島の中でも石垣島から宮古島の南方沖海域にしか認められない。

図2
図2 今回発見した巨大海底地すべりの地形
図1に白点線で示した海底地すべりの範囲の拡大図。黄色の点線で囲まれた範囲が、津波を発生させた海底地すべり域。

図3
図3 横ずれ断層が海底地すべりを発生させるメカニズムの概念図

過去の巨大津波の証拠である津波石が石垣島や宮古島周辺でしか見つからないこと、またこの地域ではプレート間の巨大地震が発生しないことも、今回発見した大規模海底地すべりが1771年八重山津波の原因と推定することと矛盾しない。

海底地すべりの規模から、過去に繰り返し地すべりを起こしてきたと推定され、石垣島、宮古島周辺では、今後も同じような規模の津波が繰り返して発生する可能性が高い。一方、このような巨大地すべりにはこの海域でだけ発達している横ずれ断層が関与していることから、南西諸島の他の領域では同規模の巨大津波は発生する可能性が低いと推定される。

今後の予定

今回の成果は南西諸島全体の地震・津波の予測を行う上で、非常に重要な知見を与えると考えている。今後、国の地震調査研究推進本部で検討される南西諸島の評価に反映され、適切な防災対策の策定に貢献できると期待される。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
活断層・火山研究部門
首席研究員  岡村 行信  E-mail:okamura-y*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)



用語の説明

◆津波の発生原因
津波は海底の地形が広範囲に変化した際に発生する。海底のプレート境界で発生する巨大地震による海底地殻変動が主な原因であるが、大規模な海底地すべりや火山噴火でも発生する。[参照元へ戻る]
◆南西諸島
九州の南側から台湾に連なる島々は、地球科学の分野では琉球弧あるいは琉球列島と呼ぶことが多く、その太平洋側に沿って発達する海溝も琉球海溝と呼ぶが、国として正式な名称はそれぞれ南西諸島、南西諸島海溝となっている。[参照元へ戻る]
◆横ずれ断層
断層の両側の岩盤が横方向にずれる運動をともなう。一方の岩盤から断層の反対側の岩盤のズレの方向によって、右ずれ断層と左ずれ断層に区分される。[参照元へ戻る]
◆先島諸島
南西諸島の中で最も台湾に近い島々(尖閣諸島を除く)の総称。東部の宮古列島(宮古島、多良間島などで構成される)と西部の八重山列島(石垣島、西表島、与那国島などで構成される)からなる。[参照元へ戻る]
◆琉球弧
南九州から台湾まで連なる南西諸島全体を含む弧状の地形的高まり。南西諸島海溝の北西側に平行して発達する。[参照元へ戻る]
◆反射法地震探査
人工的な地震波を一定間隔で発生させ、海底下(地下)からの反射波を受信して、地下の地質構造を解明する調査手法。 [参照元へ戻る]