国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】 シームレス地質情報研究グループ 西岡 芳晴 研究グループ長らは、国土交通省 国土地理院(以下、「国土地理院」という)がウェブサイトで公開している「地理院タイル(標高)」の標高データを基に、インターネット上で標高データを高速に扱うためのフォーマット「PNG標高タイル」を開発した。これを受け、国土交通省はPNG標高タイルの採用を決定し、2017年3月14日より、PNG標高タイルを採用した「地理院地図」の提供を開始した。
PNG標高タイルは、地理院地図だけでなく、グーグルマップなど他のウェブ地図アプリケーションにも対応でき、地図データのリアルタイム加工や数値シミュレーションにも利用できるため(図1)、今後は、PNG標高タイルを使った各種アプリケーションソフトが開発され、インフラ整備や防災・減災、観光など幅広い分野での標高データの利用が進むものと期待される。
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図1 PNG標高タイルの数値シミュレーションでの利用例
G-EVER火山災害予測支援システムによる雲仙岳での火砕流シミュレーション |
地形は地質と密接に関係しており、地質情報と組み合わせることにより、プレートの移動や火山噴火の歴史など地質学的なさまざまな情報を読み解くことができる。地形を表現する最も基本的なデータが標高データである。標高データはインフラ整備や防災・減災、観光など幅広い分野で極めて重要であるため、国土地理院などが測量法にのっとり測量して「基盤地図情報」として提供している。また、「地理院タイル」として公開されているさまざまな地図情報の1つとして、2013年から「地理院タイル(標高)」が提供されている。国土地理院のウェブサイトから利用できる。また、国土地理院では、地理院タイル(標高)の公開と同時に、「標高取得API」の提供も開始した。
しかしながら、基盤地図情報はダウンロードしての利用に限られ、標高取得APIには、高速に標高値を取得できない、ピンポイントの標高データを取得できるにすぎないなどの課題があり、これまでインターネット上で、標高データを自由に利用できる環境が整っているとは言いにくかった。
このような状況に対し、産総研 地質調査総合センターのシームレス地質情報研究グループは、国土地理院の協力の下、インターネット上での標高データの利用の促進を目的に、2013年から「PNG標高タイル」の開発を開始した。国土地理院から標高データの提供を受け、PNG標高タイルを試作、テストアプリケーションを開発しつつ、仕様の改善を図った。いくつかのバージョンを経たのち、2016年11月29日に最新版バージョン1.0.2を公開した。
今回開発したPNG標高タイルは、インターネット上で標高データを高速に扱うためのフォーマットで、国土地理院が公開している地理院タイル(標高)の標高データを、色に変換して画像として提供する(図2)。提供する画像のフォーマットにはPNGを採用している。その1タイルは、256×256ピクセルの正方形で、各セルには、地理院タイル(標高)の標高データが格納されている。縮尺も、地理院タイルに連動して自在に変更できる。地理院タイル(標高)では、標高データをテキスト形式で保有しているが、PNG標高タイルでは、画像フォーマットで標高データを保有しているため計算の高速処理が可能となった。
標高の分解能はPNG標高タイル作成者が任意に設定できるが、例えば、1センチメートルの分解能で作成した場合でも、世界最高標高のエベレスト(8844.43メートル)から、世界最深のマリアナ海溝チャレンジャー海淵(かいえん)(1万991メートル)まで表現可能である。
PNG標高タイルでは、「傾斜量図」も生成できる。これは、標高データを基に、傾斜の量(大きさ)を色で、段階的に立体表現したものである(図3)。例えば、傾斜が急なところは黒く、平らなところは白く表示することで、視覚的に地形の勾配が分かる画像となる。
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図2 PNG標高タイルの例
富士山周辺のPNG標高タイルで、標高の分解能は1センチメートル |
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図3 PNG標高タイルで生成した「傾斜量図」の例
富士山周辺の傾斜量図で、標高分解能1センチメートルを使用して描画 |
PNG標高タイルの開発と同時に、それを提供するテストサービス「シームレス標高サービス」も構築した。国土地理院の標高取得APIでは、1地点の標高データを取得するたびに、サーバーへの通信が発生していたため、データ取得に時間がかかっていた。一方、シームレス標高サービスでは、通信はタイルごとに発生する。そのため、複数地点の標高データを取得する際、同一タイル内であれば、一回の通信でデータが取得できるため、データ処理が大幅に高速化した。
例えば、地質調査総合センターが公開している日本全国の地質図を表示できる「20万分の1日本シームレス地質図」の3D版ではPNG標高タイルを利用しており、3D画像上でポインターを移動させるだけで、即座にその地点の標高を確認できるようになった(図4)。
さらに、「浸水シミュレーション」というウェブアプリケーションソフトも開発した(図5)。これは、津波や地球温暖化で水位が上昇した場合を想定したシミュレーションソフトで、コンピューター上で、水位を指定するだけで簡単に、浸水領域が画像で確認できる。水位はメートル単位で指定でき、背景地図として地理院地図などが利用可能である。
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図4 20万分の1日本シームレス地質図の3D版で富士山周辺を表示した例
マウスで指定した地点の標高を即座に確認できる。 |
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図5 ウェブアプリケーション「浸水シミュレーション」
左上のスライドバーで任意の水位を指定でき、即座に描画させることができる。 |
産総研 G-EVER(アジア太平洋地域大規模地震・火山噴火リスクマネジメント)推進チームは、PNG標高タイルを利用した火砕流シミュレーションを公開している(図1)。これは、G-EVER上でマウスを使って火山の火口を指定するだけで、火口から火砕流が流れていく方向や範囲を、画像で分かりやすく表示でき、地図の3D表示にも対応している(図6)。PNG標高タイルの標高データを参照することで、リアルタイムなシミュレーションが可能となった。
今回のPNG標高タイルにより、インターネット上で高速に標高データが扱えるようになったことで、今後、地方自治体などによるPNG標高タイルを使った各種アプリケーションソフトが開発され、インフラ整備や防災・減災、観光など幅広い分野で、標高データの利用が進むものと期待される。すでに、宮崎県情報政策課がPNG標高タイルを利活用した地図アプリで、2017年3月27日に、内閣府地方創生推進室主催の「RESAS アプリコンテスト」において、最優秀賞を受賞している。
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図6 PNG標高タイルの数値シミュレーションでの利用例
G-EVER火山災害予測支援システムによる雲仙岳での火砕流シミュレーション結果の3D画像 |
PNG標高タイルの仕様はほぼ完成段階にあり、日本国内および低解像度の全球標高タイルはすでに国土地理院から公開されている。現在、衛星画像などを利用した高解像度の全球PNG標高タイルの提供を検討している。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
地質調査総合センター 地質情報研究部門 シームレス地質情報研究グループ
研究グループ長 西岡芳晴 E-mail:y-nishioka*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)