国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下、産総研という)イノベーション推進本部 大田 明博 総括企画主幹、工学計測標準研究部門【研究部門長 高辻 利之】強度振動標準研究グループ 野里 英明 主任研究員らは、株式会社 共和電業、トヨタテクニカルディベロップメント株式会社、一般財団法人 日本自動車研究所、株式会社 日産クリエイティブサービスとの連携を通じて、計測における不確かさの表現ガイド(Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement)に準拠した、遠心加速度を用いた加速度計の一次校正法を国際標準化機構(ISO)に提案し、ISO国際標準規格(ISO 16063-17)として2016年5月30日に発行された。
自動車の衝突実験の際のドライバーの頭部安全性評価などでは、ひずみゲージ式加速度計が世界的に使用されているが、日本の事業者は遠心加速度を用いたひずみゲージ式加速度計を校正している。実際の衝突実験では、遠心加速度と異なりさまざまな周波数成分を含んだ加速度波形を計測することから、産総研が所有する衝撃校正装置と各機関が所有する遠心校正装置との同等性をひずみゲージ式加速度計のラウンドロビンテストを実施することで技術的に評価した。
|
本取組における自動車業界との活動概要と意義 |
国内大手自動車会社は、10年以上前からひずみゲージ式加速度計を自社製品の衝突安全性能試験等に利用し、その加速度計の校正に遠心加速度を用いていた。そのため、遠心校正は自動車衝突試験に用いるひずみゲージ式加速度計を校正するための日本国内でのデファクトスタンダードであった。近年、欧州(おうしゅう)への自動車輸出に伴う認証項目である「安全性」(衝突安全、予防安全など)の評価試験では、ISO/IEC 17025への準拠といった今後の国際的基準調和に関わる試験結果の適合性証明を求められるようになってきたが、これまでの遠心校正の結果は事業者による独自保証であった。
産総研はこれまで高加速度を発生する加振器の開発と、低周波振動や高周波振動を高精度に測定するレーザー光干渉式計測システムやそれに付随するデジタル信号処理に関する技術開発に取り組んできた。また、さまざまな国際機関比較に参加することで、加速度計校正技術の国際同等性の確保にも努めてきた。今回、産総研、国内大手自動車会社などが連携し、ひずみゲージ式加速度計の遠心校正に関する国際標準規格ISO 16063-17の発行に取り組み、同時に遠心校正の技術的妥当性について評価した。遠心加速度はDC成分のみの加速度波形となるが、欧州の衝突認証試験ではAC成分を含む衝撃校正によって評価されたひずみゲージ加速度計が用いられることから、海外からは遠心校正と衝撃校正の整合性について検証が求められていた。(図1を参照のこと)
今回のISO国際標準規格の発行への取り組みは、産総研 標準化基盤研究「遠心加速度校正に関する標準化研究(平成25~27年度)」や各参加機関の支援を受けて行われた。各参加機関は、産総研 計量標準総合センターの振動計測クラブを通じて、ISO/TC108/SC3における国際標準化活動の状況の把握や加速度計測に関する問題意識醸成を行っており、今回のISO 16063-17の規格発行に至った。
|
図1 自動車業界における加速度計の校正に関する世界的状況 |
今回、遠心校正の一次校正方法に関するISO国際標準規格の発行を目指したため、必要な作業は下記二点であった。
① 計測における不確かさの表現ガイド(Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement)に対応した遠心校正の不確かさを記述し、日本の実情に即した規格を作成すること
② 図2に示すような実際の自動車衝突実験と同じく時間変化を伴う衝撃校正を主とする他国の賛同を得るために、遠心校正の妥当性を検証した実験結果を提示すること
遠心加速度は回転円盤の半径と角速度の組立量であり、ひずみゲージ式加速度計の感度は回転円盤によって与えられる遠心加速度とひずみゲージ式加速度計の出力電圧との比によって与えられる。二点目を達成するには、経常的に遠心校正を使用している国内自動車業界と連携して、遠心校正による校正値の評価と、その妥当性を示すため衝撃校正と遠心校正の整合性を検証する必要があった。そのため、遠心校正装置製造事業者である共和電業との共同・受託研究によって、ラウンドロビンテストに適した安定性に優れた仲介器(ひずみゲージ式加速度計)の選定と、衝撃加速度と遠心加速度による校正条件(加速度レベル、測定回数)や手順、結果報告等に関する技術的な手順文書を作成した。その技術的な手順文書に基づき、産総研と4機関(共和電業、トヨタテクニカルディベロップメント、日本自動車研究所、日産クリエイティブサービス)との間で、同一の仲介器であるひずみゲージ式加速度計を持ち回って、その感度をお互いに比較するラウンドロビンテストを実施した。このラウンドロビンテストでは、産総研は衝撃校正装置(ISO 16063-13に準拠した一次校正)を用い、その他4機関は遠心校正装置を用いて、図3に示す結果が得られた。その結果、4機関における遠心校正の結果は、路上走行車 衝突試験規格 ISO 6487で要求される衝撃計測の確度(1.8 %)内に全て含まれた。これにより、産総研が所有する衝撃校正装置と各機関が所有する遠心校正装置との同等性が確認され、遠心校正による技術的な有用性を示すことができた。
|
図2 自動車衝突実験で計測される衝撃波形の典型例 |
|
図3 ひずみゲージ式加速度計における遠心校正と衝撃校正の整合性に関する検証結果
(エラーバーは路上走行車 衝突試験規格 ISO 6487で要求される衝撃計測の確度を示す) |
自動車衝突試験の安全性評価の際に、ISO 16063-17に準拠したひずみゲージ式加速度計が用いられることで、国内自動車メーカーの海外輸出に対する障壁を軽減できる。また、長年自動車業界が蓄積してきた時間変化を伴わない遠心校正のバックデータに対して、実際の衝突試験と同じく時間変化を伴う衝撃校正と整合する技術的エビデンスを与えた。
ISO国際標準規格は、一般財団法人 日本規格協会で購入できる。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
イノベーション推進本部
総括企画主幹 大田 明博 E-mail:a-oota*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
工学計測標準研究部門 強度振動標準研究グループ
主任研究員 野里 英明 E-mail:hideaki.nozato*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)