国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門【研究部門長 中尾 信典】地圏環境リスク研究グループ 保高 徹生 主任研究員、張 銘 研究グループ長らは2016年2月、産総研コンソーシアムとして、Sustainable Remediationコンソーシアムを設立した。近年、土壌汚染とその対策費用による社会的・経済的な影響が増している。サステイナブル・レメディエーション(SR)とは、環境面のリスク・負荷を低減しつつ、社会的・経済的影響を含めてバランスのとれた土壌汚染対策方法を選択するための評価・意思決定手法である。国際的には専門組織であるSuRF(Sustainable Remediation Forum)が設立され、またSRの国際標準化を目指した動きなども活発化している。産総研では、日本におけるSRの適用可能性の検討に先だち、正確な海外動向をリアルタイムに把握するとともに、東京都環境局などと連携し、土壌汚染対策に伴う環境負荷評価ツールの開発や「土壌汚染対策における環境負荷評価手法ガイドライン(2015年3月)」の策定などを通じて、基本検討を進めてきた。さらに、これらの成果を元に日本におけるSR適用の検討と研究開発を加速し、産学官連携や国際連携を強化するために、2016年2月にSustainable Remediationコンソーシアムを設立した。このコンソーシアムの活動により、わが国における持続可能な土壌汚染対策のあり方を議論するととともに、実社会への展開を目指す。このコンソーシアムの詳細は、2016年6月7日にSustainable Remediationコンソーシアム第1回研究会で紹介される。
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コンソーシアムの活動概要と組織図 |
近年、工場跡地の再開発や大規模土木工事に伴い発生する重金属などを含む汚染土壌の処理が大きな社会的問題となっている。汚染土壌の対策・措置としては、汚染土壌を物理的に掘り出して管理型処分場等に運搬・埋設する方法が多く採用されているが、掘削と運搬などに膨大なエネルギーが使用されるため環境負荷が大きく、またコストが高いといった課題があった。今後、都心部での再開発の加速、大規模道路工事や新幹線整備などにより、もともと地層に含まれる自然由来の重金属などを含む土砂や岩石が大量に発生することが予想され、環境安全性を確保しつつ、社会的・経済的な影響を最小限に抑えることが非常に重要となる。
一方、近年、欧米を中心に合理的な土壌汚染対策の意思決定の新たな方法として、環境負荷評価・低減の手法であるグリーン・レメディエーション(GR)、さらに環境面だけでなく社会面・経済面も考慮した土壌汚染対策の意思決定の技術的手法であるサステイナブル・レメディエーション(SR)への取り組みが進んできた。国際的には専門組織SuRFが設立され、ASTM(米国材料試験協会)の規格化、 さらにはISO/TC 190にて国際標準化活動が進められるなど、SRの考え方の規格化・国際標準化や実際の現場への適用を目指した動きが活発化している。一方、国内では、国際的動向の調査や評価基本ツールの検討・ソフトウエア化などは進められていたが、産学官が連携したSRの本格的な検討や国際機関との連携については十分進められていなかった。
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図1 サステイナブル・レメディエーションの概念 |
これまで地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門は、土壌・地下水汚染に係るリスクを定量的に評価できる地圏環境リスク評価システム[GERAS]の開発(産総研プレス発表:2009年9月30日)や、放射性物質除染の効果に関する研究の推進(主な研究成果:2013年6月4日)など、土壌汚染に伴う環境リスクを適切に評価しつつ、社会的・経済的な影響の定量評価・低減のための技術開発を進めてきた。
これまで産総研は、SRへの取り組みとして東京都環境局と共同研究を行い「土壌汚染対策における環境負荷評価手法ガイドライン」の作成・公表や評価ツールの構築を進めてきた。このガイドラインは、土壌汚染対策措置に伴う温室効果ガスや有害物質の排出量などの環境負荷を事業者が定量的に評価できる方法と最新の知見を取りまとめたものである。汚染土壌を掘り出して除去する掘削除去法や洗ってきれいにする土壌洗浄法などの12種類の土壌汚染対策措置を対象に、従来、指標としてよく採用されてきたCO2だけでなく、窒素酸化物NOxや硫黄酸化物SOxなどの有害物質、石油資源消費なども含めたライフサイクルアセスメントの考え方に基づく外部環境負荷評価法を提示した。このガイドラインは東京都のウェブサイト(https://www.kankyo.metro.tokyo.jp/chemical/soil/attachement/Guidline2015-03-14.pdf [PDF:3.4MB])で公開されており、開発した評価ツールは、2016年1月21日にScience of the total environment誌電子版(doi:10.1016/j.scitotenv.2016.01.018)で公開されている。
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図2 評価ツールを用いた複数の措置の外部環境負荷の評価結果例 |
ISO/TC190における国際標準化活動や、国際会議などの議論の中で、SRの考え方についての国際規格化・標準化の動きが活発化しているが、国内では前述のガイドラインやツール、さらには一般社団法人 土壌環境センターのCO2評価ツールなどがあったものの、産学官が連携したSRの本格的な検討や国際機関との連携については十分達成されていなかった。
このような背景を受け、産総研コンソーシアムとしてSustainable Remediationコンソーシアムを2016年2月に設立した。このコンソーシアムは、2016年5月23日現在、法人会員11社、個人会員6名、有識者などのアドバイザー4名で活動している。
Sustainable Remediationコンソーシアムの目的は、①国内におけるSRの概念・ツールの整備、②国内におけるSRの知見の普及・周知、③SuRFのメンバーとなり、「SuRF-Japan」として国際連携・情報交換、④持続可能な汚染土壌、地下水対策の手法確立に伴う社会的・経済的影響の低減、である。具体的には目的別のワーキンググループ(WG)活動、年3~4回の研究会、そして国際組織SuRFとの情報交換を進めていく予定であり、第1回研究会を2016年6月7日に開催する。
今後はSustainable Remediationコンソーシアムの活動を推進し、産官学が連携した形で、日本の持続可能な土壌汚染対策のあり方について議論を深め、国際的な連携や情報共有を進めていく。また、わが国におけるSRの本格的な研究を推進していく。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏環境リスク研究グループ
主任研究員 保高 徹生 E-mail:t.yasutaka*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
研究グループ長 張 銘