発表・掲載日:2013/11/22

ランドサット8号の日本上空からのデータを即時公開

-人工衛星を使った地球観測データの無料提供を開始-

ポイント

  • ランドサット8号が撮像した日本上空の画像を直接受信して即時公開するシステムを構築
  • 利用制限のない最新の地球観測画像をわかりやすいインターフェースで一般に公開
  • 時系列画像により防災・環境監視・農林水産業などの分野に貢献

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター【代表 佃 栄吉】、情報技術研究部門【研究部門長 伊藤 智】は、米国の人工衛星ランドサット8号地球観測データをウェブ上に即時公開するシステムを構築し、平成25年11月22日から一般に無料で提供する(http://landsat8.geogrid.org)。ランドサット8号は、日本の上空を毎日通過し日本全体を16日周期で巡回するが、このシステムは撮像されたデータを直接受信し、受信後約1時間半で公開する。これは、ランドサット8号を運用する米国地質調査所(以下「USGS」という)との国際協力契約により、可能となった。

 このシステムの構築は産総研の地球観測データのプラットフォームGEO Grid(地球観測グリッド)の研究開発の一環として行った。膨大なデータの蓄積とその容易な取り出しを可能とするアーカイブシステム技術や、他のデータと統合するための横断的な検索サービス技術などを組み合わせ、多様な用途に対応できるデータ提供をワンストップで行う。提供する地球観測データの空間分解能は、これまで無料で自由に利用できるデータの空間分解能より高く、可視光線領域・近赤外線領域で15~30 m、熱赤外線領域で100 mである。16日ごとに同一地点を観測するため、防災・環境監視・農林水産業など広範な分野で時系列画像を使った利活用が想定される。また、利用制限のない公的データとして地理空間情報を活用した観光などビジネスでの利用も期待される。

このシステムによるデータの直接受信、アーカイブ(蓄積)、即時公開の概要の図
このシステムによるデータの直接受信、アーカイブ(蓄積)、即時公開の概要

開発の社会的背景

 近年、さまざまな分野で人工衛星による地球観測データの利用が進んでいる。特に防災や環境の監視、農林水産業では森林火災時などのために安価で最新の地球観測データが求められるが、これまで、無料のデータには十分な空間分解能がなかった。例えば、TERRA衛星に搭載されているMODISの場合、地球観測データは無料で利用できるが、その空間分解能は250 m以上であり、通常の河川や農地の情報がわからないので災害や農業での活用は難しい。また空間分解能が30 mよりも高い有料のものであっても、データの受信局とデータを処理する機関の間の通信やデータ処理に時間を要する。そのため、受信から公開まで数日かかり、最新のデータを得るのが困難であった。このように、従来型のデータ処理・配信システムでは近年の需要に十分に応えられてはいなかった。一方、15~30 mの空間分解能があると、河川の汚濁状態や農地の情報が判読でき、災害や作物の生育状態も推測できる。即時にこれらの情報が取得できれば、必要な対応を素早くとることができる。

研究の経緯

 産総研は、GEO Gridの研究開発の一環として、TERRA衛星に搭載されたASTERセンサーのデータを始めとした、地球観測データのデータベースを構築・提供している。また、地質データなども含めた多様な地理空間データを使った資源探査など、さまざまな応用の研究開発に取り組んでいる。

 その過程で、実時間性の高い衛星データを提供することが、地球観測データのさまざまな利用につながることがわかり、衛星から直接データを受信して、観測後すぐに公開できるシステムの構築に取り組んだ。このシステムで衛星データを利用するため、最新衛星であるランドサット8号(平成25年2月打ち上げ)を運用するUSGSと協力契約を平成25年11月21日に締結した。その協力合意書に従って日本周辺地域の受信局として、データ受信・処理・蓄積・配信システムを構築し、今回の一般向けの公開に至った。

研究の内容

 今回構築したシステムは、日々地球を周回しているランドサット8号から直接データを受信・蓄積すると同時に、ウェブ上に即時公開している(http://landsat8.geogrid.org)。このウェブサイトでは、過去16日間(ランドサット8号は16日ごとに同じ地点を観測する)の日本上空の観測データを誰でも無料で閲覧できる。データ受信からウェブ配信までのすべての処理が自動化・最適化されており、ランドサット8号が上空を通過してから2時間程度で全処理が終了する。

 このシステムでランドサット8号の日本上空通過時のデータを直接受信するため、USGSと契約を締結した。受信には産総研からの委託先である学校法人 東海大学宇宙情報センター(熊本県上益城郡)の5 mパラボラアンテナを利用している。受信した画像データは、高速ネットワーク回線を介して産総研つくばセンターに10分以内に送信され、産総研の画像処理システムにより10~20シーンが並列処理される。受信開始後1時間半程度で、ウェブ上でユーザーが画像を閲覧・ダウンロードできるようになる。」

 受信する撮像地域を図1に示す。地図のそれぞれの四角が1つの撮像シーン(南北170 km、東西185 km)を表し、日本全体では86シーンになる。空間分解能は可視光線のデータ近赤外線のデータが15~30 m、熱赤外線のデータが100 mと、従来から無料提供されているデータの空間分解能より高い。また、観測場所の優先度は3段階あり、もっとも優先度の高いシーン(図1赤)はUSGSと産総研の契約により、雲の有無にかかわらず撮像される。

撮像地域図
(C) AIST GEO Grid, Background image by NASA Earth Observatory
図1 撮像地域
優先度1のシーンは雲の有無に関わらずほぼ確実に取得する。優先度1以外のシーンは雲がかかっていれば基本的に取得しないが、システムに余裕があれば優先度順に取得する。

 撮像された衛星観測データは、このシステムに蓄積されていくが、ユーザーは観測日時や画像にかかっている雲の量の多さを指定するなどして必要なデータを検索することができる。検索した結果は画面上で確認でき、ユーザーが必要とするデータをダウンロードできる(図2)。この検索機能は、OGC規格に準拠した産総研開発のカタログサービスのソフトウエアを用いている。また、現在OGCで仕様策定中のカタログサービスの改訂版にも対応できるため、将来は他のシステムで公開されている複数の衛星観測データに対する横断的な検索もできる。


画像検索画面のレイアウト図
(C) AIST GEO Grid, Background image by NASA Earth Observatory
図2 画像検索画面のレイアウト
1) 検索したい画像データの観測範囲を決めた上で、2) 画像の取得時期(開始年月日と終了年月日)と、3) 画像中の雲の量の上限値を入力することで、Search(検索)が可能となる。 4) Searchをクリックすると、5) 該当する画像が画面左側にサムネイルで表示され、6) Downloadをクリックすることで、画像データをダウンロードできる。

 時系列画像を利用すると、環境の変化などを監視することもできる。図3は新潟県上越市郊外の田園地帯の平成25年6月4日と6月27日の画像である。茶色の土地が緑色になり、田植えが進んでいる様子がわかる。

 また図4は北海道大雪山付近であるが、6月13日から7月15日の1か月で融雪が進んでいる様子がわかる。なお、この図では表示するデータの種類を変えており、近赤外線領域のデータの波長1.560~1.660 µm のデータを赤で、波長0.845~0.885 µmのデータを緑で、可視光線のデータの赤(波長0.630~0.680 µm)を青で表示することにより、雪が波長1.560~1.660 µmの赤外光線を反射しにくく、雲が反射しやすい性質を使って雪を水色、雲を白で表現している(通常は赤色のデータを赤で、緑色のデータを緑で、青色のデータを青で表示している)。


時系列画像を使った環境変化監視の例(1)画像
Image by AIST GEO Grid
図3 時系列画像を使った環境変化監視の例(1)
上下で海の色が異なるように見えるのは、下では薄雲が海上に発生しているため。また、日付がランドサット8号の撮像周期である16日ではなく23日になっているのは、上越市が撮像シーンの重なった部分に位置しており、16日間に2回データが取得されるため(図1)。

時系列画像を使った環境変化監視の例(2)画像
Image by AIST GEO Grid
図4 時系列画像を使った環境変化監視の例(2)

今後の予定

 一般ユーザーが衛星データをより身近に感じられるように、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアを活用してコミュニティーなどを通じて情報を発信し、同時にユーザーの要望などを取り入れる仕組みを整えていく。また、今後打ち上げられる超小型衛星のデータも本システムに取り込み、データ配信を統合し、大学・産業界との連携を図る。さらに、過去の画像との比較による変化の自動検出といった高度な解析を行うIT基盤の整備を進めていく。

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所
情報技術研究部門 上級主任研究員 岩田 敏彰  E-mail:totty.iwata*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
地質調査情報センター 総括主幹 岩男 弘毅  E-mail:iwao.koki*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)



用語の説明

◆ランドサット8号
アメリカ航空宇宙局(NASA)が開発し、USGSが運用している地球観測衛星で、平成25年2月11日に打ち上げられ、現在も運用中である。11種類の観測データが提供され、その空間分解能は、可視光線・近赤外線領域で15~30 m、熱赤外線領域で100 mである。[参照元へ戻る]
◆地球観測データ
人工衛星を用いて収集されたデータをはじめとして、気象観測地点の温度、降水量、風など、地質探査によって得られた地質情報、二酸化炭素排出量の計測データなどを指す。ランドサット8号による地球観測では、南北170 km、東西185 kmのシーンという単位ごとに画像が分けられており、1シーンあたりの画像データは合計で1 GB程度になる。さらに、日本の観測では1日7シーン程度を撮像するので、毎日7 GBずつデータが取得されていくことになる(年間約3 TB)。このように地球観測データは観測システムそれぞれが大量にデータを持っているため、、必要な情報を取り出すためには観測日時や場所、データの種類などで絞り込みを行い、効率的に検索しなければならない。[参照元へ戻る]
GEO Grid(地球観測グリッド)
グリッドやクラウドといった、ネットワークで繋がれた複数のコンピューターを協調させて処理能力や記憶容量を大きくする技術(分散・並列処理技術)を用いて、衛星観測データの大規模アーカイブ・高度処理を行い、さらに各種観測データベースや地理情報システムデータと融合し、ユーザーが手軽に扱えることを目指したプロジェクト。また、そのプロジェクトで研究開発・運用しているシステム。産総研内の情報通信・エレクトロニクス分野と地質分野の分野融合プロジェクトとして整備が進められている。[参照元へ戻る]
◆空間分解能
2つの物体が2つと認識可能な距離のことで、リモートセンシングでは撮像装置の1ピクセルが占める距離をあらわす。[参照元へ戻る]
TERRA衛星
NASAの宇宙計画「地球観測システム(EOS)」の最初の大型衛星である。地球環境システム(大気・雲・氷雪・水・植生など)のメカニズムの解明を目的として、平成11年12月18日米国ヴァンデンバーグ空軍基地よりNASAが打ち上げた。この人工衛星には日本の経済産業省が開発したASTERの他にMODISなど5種類の観測装置が搭載され、多面的な観測をほぼ同時に行うことができる。[参照元へ戻る]
MODIS(Moderate-resolution Imaging Spectroradiometer)
NASAによって開発された可視光線領域・赤外線領域の放射計で、TERRA衛星やAQUA衛星(平成14年5月4日米国ヴァンデンバーグ空軍基地よりNASAが打ち上げたEOSの衛星)に搭載されている。衛星直下の水平解像度は250 m、500 m、1 kmの3種類である。[参照元へ戻る]
ASTER(Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer)
TERRA衛星に搭載されている高性能光学センサーで、日本の経済産業省が開発した。地球を構成する地圏、水圏、雪氷圏、生物圏、大気圏およびそれらの相互関係の研究を目的としている。[参照元へ戻る]
◆可視光線のデータ、近赤外線のデータ、熱赤外線のデータ
ランドサット8号は可視光線(波長で0.4~0.7 µm)領域のデータを5種類取得できる。そのうち2種類の青色データ(波長0.433~0.453 µm、0.450~0.5153µm)、1種類の緑色データ(波長0.525~0.600 µm)、1種類の赤色データ(波長0.630~0.680 µm)の空間分解能は30 mで、可視光線全体を捉える白黒データ(波長0.500~0.680 µm)の空間分解能は15 mである。また、近赤外線(波長で800~2300 µm)領域のデータとして4種類(波長0.845~0.885µm、1.360~1.390 µm、1.560~1.660 µm、2.100~2.300 µm)が取得できる。対象物によって可視光線・近赤外線の反射率が異なるため、それらを個別に調べることで対象物が何であるかを推定することができる。可視光線のデータに加えて、熱赤外線(波長で10~12.5 µm)領域のデータを2種類(波長10.3~11.3 µm、11.5~12.5 µm)取得するため、計11種類の観測データが取得できる。
熱赤外線のデータを調べると、対象物の温度が推定できる。熱赤外線領域のデータを2つ取得することにより、大気が熱赤外線の強度などに与える影響の補正などを行い、より正確に温度の推定ができるようになる。[参照元へ戻る]
OGC(Open Geospatial Consortium)
地理空間標準の国際コンソーシアム。NASAや欧州宇宙機関(ESA)など宇宙関係の政府機関、地理情報システム(GIS)関連企業、大学や研究機関、情報サービス関連企業などが参加している。地理空間情報の分野では、OGCの策定する規格の多くが事実上の標準として広く使われるとともに、この規格が最終的にISO規格として国際標準化されることが多く、影響力の極めて大きなコンソーシアムである。[参照元へ戻る]
◆カタログサービス
ここでは、どの空間データを誰が持っているかの情報や、空間データの所在情報を検索、提供するサービスのこと。それぞれの空間データについての説明(メタデータ)内の文字列をキーワードとして空間データの所在情報を検索したり、実際の地球上での空間データの範囲(緯度・経度の範囲など)を指定して検索したりすることができる。[参照元へ戻る]