独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】シームレス地質情報研究グループ【研究グループ長 斎藤 眞】内藤 一樹 主任研究員は、インターネット環境において産総研の持つ地質情報を誰もが閲覧できるウェブサイトを作成し、2012年11月1日より「地質図Navi」として公開を始めた。地質図Naviは、http://gsj-seamless.jp/geonavi/ から利用できる。
地質図Naviは、産総研がこれまでに整備してきた数多くの地質図を表示するとともに、活断層や第四紀火山などの地質情報を地質図と合わせて表示することが可能である。これまで産総研が公開してきた統合地質図データベース(GeoMapDB)と比べて、表示可能な地質情報の種類が増加し、地質図の表示速度と操作性が向上した上、PCやタブレット端末などの多くの情報機器から利用できるようになるなど、利用者の利便性が大幅に向上した。
また、地質図データは標準的な形式で配信されるため、利用者は一般的な地図アプリケーションで地質図データを活用することが可能となる。
地質図の利用が容易になることで、企業や教育現場で詳細な地質情報の活用が増え、建設や防災、自然教育など地質と関わる活動の質が向上することが期待される。
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図1 地質図Naviでの地質情報表示の例
地図上をクリックすることで地質図が表示される。活断層や第四紀火山などの情報を表示することもできる。PCやタブレット端末などで利用できる。 |
東日本大震災を経て多くの人々の中で、地盤の安定性や活断層の評価、地層に含まれる化学成分など地質に対する関心が高まっている。産総研では20万分の1スケールで日本全国の地質を表現した日本シームレス地質図を2005年よりインターネットを通じて公開しており、地盤調査や土地評価など様々な場面で活用されている。しかし、20万分の1スケールでは十分ではない細かな地域の詳しい地質や、断層、地盤の化学成分など更に詳細な地質情報を知りたいという要望もたびたび寄せられてきた。
産総研では、地質図として日本全国の詳細な地質情報の整備を進めている。地質図は、産総研地質調査総合センターの前身である旧地質調査所により明治期から長い年月をかけ整備され、現在も最新の地質学の知見を反映し発行・改訂が続けられている国土の基本情報である。しかし、これらのほとんどが印刷による出版物であるため、地質情報を利用するためには書庫の膨大な資料から地質図を探し出す必要がある。また地質専門家以外の一般の人にとっては多数の地質図にアクセスすること自体が難しい状況であった。そこで、インターネットを通じて産総研の地質情報を利用できるシステムを整備することで、誰もが自由に地質情報を活用できる環境の構築を目指した。これにより、業務や研究で地質情報を扱う利便性が向上するのみならず、各地の自然教育活動や学校教育の場での地質情報を活用した活動などの品質の向上も期待できる。
産総研は、これまで発行してきた全国の地質図をもとに主要な地質図をウェブブラウザーで表示可能な統合地質図データベース(GeoMapDB)を2006年に公開した。
GeoMapDBでは、それまでインターネットでは未公開であった20万分の1や5万分の1地質図幅の画像の閲覧が可能になった。しかし、地質図の付属情報の閲覧機能が不足する点や、地図画像の品質、表示速度などに不十分な点があった。地質図では、地域による地質の特徴の違いや、作成当時の地質学の考え方の違いなどにより、地質図毎に地層の分類や地質構造の解釈などが異なる。そのため、それらの情報を示した地質凡例や地質断面図などの付属情報は、地質図に表現された情報を読み取る上で欠くことのできない情報であり、付属情報もあわせて扱うことのできる地質図表示システムが必要だった。
昨今、インターネットでの地図利用の普及とともに地理空間情報配信の標準化や、ユーザーの利用する地図表示ソフトの高機能化も進んでいる。そこで産総研では、地質図表示に適した表示機能を持ち、多種の情報を表示可能な新たなシステムを構築することとした。
今回、試験公開されたウェブサイト「地質図Navi」は、情報端末とインターネット環境さえあればどこからでも快適に様々な地質情報を表示可能な地質情報閲覧システムとして作成された(図2)。
従来のウェブサイト(GeoMapDB)では、PCのウェブブラウザーでの表示にしか対応せず、表示可能なデータの種類も限定されていたが、地質図Naviでは、PCだけでなくタブレット端末やスマートフォンなど多様な情報機器のウェブブラウザーで利用することが可能となり、国際規格であるWMS配信データとして提供される重力図や地球化学図などの様々な情報が表示可能となった(表1)。
マウス操作による地質図や付属情報の直感的な表示を実現し、快適に複数の地質図の情報を切り替えて閲覧することができる。
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図2 「地質図Navi」公開サイトの表示画面の例
地図上をクリックすることで地質図が表示されるなど、直感的で快適な操作を実現。 |
表1 地質図Naviで表示可能なデータ一覧 |
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※1 従来のウェブサイトでは地質図画像のみ表示できた。
※2 従来のウェブサイトでは一部機能のみ利用できた。
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地質図Naviの機能は、地質図データ配信サービス、地質図データ利用ライブラリ、地質図Navi本体プログラムの3つの要素を組み合わせることで実現した(図3)。
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図3 地質図Naviを構成する3つのコア技術
地質図データ配信サービス、地質図データ利用ライブラリ、地質図Navi本体プログラムの3つの要素を組み合わせることで地質図Naviが構築される。 |
「地質図データ配信サービス」:
地質図データをインターネット配信するサービス。産総研の整備する多数の地質図データを、インターネットを通じて利用者が取得することが可能となった。多くの地図表示ソフトが対応するTMS (Tile Map Service)形式での配信のため、利用者が独自のソフトに地質図データを読み込み利用することもできる。
「地質図データ利用ライブラリ」:
地質図データ配信サービスのデータをウェブアプリケーションで利用するための機能をまとめた補助プログラム。複数の地質図の重なりとグループ操作を管理する機能、地質図の地質凡例や地質断面図などの付属情報を検索・表示する機能などを持つ。これを利用することで、ウェブサイト制作者は地質図を表示するウェブサイトを簡単に作成することができる。このライブラリは、試験公開の結果をもとに改良を加えた後に一般公開される予定である。
「地質図Navi本体プログラム」:
地質図データ利用ライブラリを利用して作成されたウェブアプリケーション。産総研の整備する活断層データベースや第四紀火山データベースなどの地質系データベースを利用し、活断層や第四紀火山などの情報を利用する機能を持つとともに、インターネットを通じて配信される様々な地理空間情報を利用する機能を持つ。利用者は、多数の地質図を快適に表示し、活断層を始めとする様々な情報を地質図と重ね合わせて閲覧することができる。
地質図Naviの利用場面の例として、以下の様な用途が挙げられる。
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地質図と地すべり地形情報などを重ね合わせることで、防災上の注意の必要な地域の検討に利用する。
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道路など建設工事の計画の初期段階で地質情報を確認することで、計画作成の効率が向上する。
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自然教育活動の現場において、地域の地質の特徴を調べ自然観察の教材として利用する。
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博物館などのウェブサイトに掲載された周辺地域の案内マップに「地質図データ利用ライブラリ」を追加することで、わずかな作業で地質図表示を追加できる。
今回の試験公開の後、利用者からのご意見・ご要望などをもとに機能の追加と改良を行うことで、2013年3月に地質図Naviの正式版を公開する予定である。
また、地質図Naviは、地図に表示される様々な情報を柔軟に扱えることを目指して開発を継続し、公開が予定される産総研の各種地質系データベースの利用や、様々な機関から配信される地理空間情報の利用を進めることで表示可能な情報を順次追加し、地質情報利用の利便性を向上していく予定である。
独立行政法人 産業技術総合研究所
地質情報研究部門 シームレス地質情報研究グループ
主任研究員 内藤 一樹 E-mail:naito-k*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)