発表・掲載日:2010/02/19

第51次南極地域観測隊へ海氷状況が把握できる衛星画像を提供

-地球観測データ統合システムGEO Gridで大規模な衛星データを迅速に処理-


 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【研究部門長 関口 智嗣】地球観測グリッド研究グループ【研究グループ長 土田 聡】は、独自に開発している地球観測データ統合システムGEO Gridhttp://www.geogrid.org/jp/index.html )を用いて衛星画像データを処理し、南極観測船「しらせ」が昭和基地に接近した2010年1月に第51次南極地域観測隊(以下「観測隊」)に画像として提供した。この画像により、「しらせ」と昭和基地周辺の海氷状況が把握でき、「しらせ」の夏季の主な活動である昭和基地への物資輸送および観測隊が基地周辺で観測を実施する上で航路計画や安全行動などに役立った。

 提供した衛星画像は陸域観測技術衛星ALOS「だいち」に搭載されたPALSAR(フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダー)によって取得されたもので、財団法人 資源・環境観測解析センターからのデータ提供の下、2009年11月6日および同年12月22日の受信データ(46日毎に同一地域の上を飛ぶ衛星から得られたデータ)をGEO Gridで画像処理し、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所(以下「極地研」)を経由して観測隊に画像を提供した(2010年1月11日)。

 さらに、2010年2月6日の受信データについても速やかにGEO Gridによる画像処理を行い、同9日に極地研へ衛星画像を転送し、同10日には極地研から昭和基地に滞在する観測隊に提供された。観測隊にとっては、「しらせ」が基地を離れて復路航海の開始を迎える時期であり、産総研が提供したGEO Gridによって処理された衛星画像は、計画された復路の海氷状況を把握し、安全な航路決定に資することが期待される。

 地球全球を観測する衛星画像は大規模なデータで、かつ様々な提供形式があるため、必要なタイミングで必要な地域のデータを提供できるように画像を処理することは困難である場合が多い。今回の観測隊への衛星画像提供によりGEO Gridが必要なデータを迅速に処理して情報を提供できることが実証された。

2009年12月22日受信の衛星画像
2009年12月22日受信
2010年2月6日受信の衛星画像
2010年2月6日受信
【観測隊に提供した衛星画像例】
  空間分解能25mで処理したもので、画像上の濃淡はマイクロ波散乱強度の違いを表わす(白は散乱が強く、黒は弱い)。2つの画像を比較すると、画像上端中央部にあたる沖合の流氷域(赤丸)が黒くなっており12月から2月にかけて流氷が少なくなっていることが良く分かる。
 画像右下の黒い部分は南極大陸、★(赤星)が昭和基地。(説明用に衛星画像上に赤丸および赤星で図示)

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所
情報技術研究部門 地球観測グリッド研究グループ  E-mail:geogrid_query*m.aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)

用語の説明

◆GEO Grid
GEO Gridは、地球観測に関する様々なデータを統合して、多様なユーザーが容易に利用できることを目指しているシステムで、防災や環境問題への応用あるいはビジネスでの利用が期待されている。現在も産総研において機能拡充のための開発が進められている。(産総研TODAY 2009年3月号[参照元に戻る]
◆ALOS (Advanced Land Observing Satellite)
独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、2006年1月24日にH II-Aロケットによって打ち上げた世界最大級の地球観測衛星。「だいち」の愛称が付けられ、衛星が全く同じ軌道に戻ってくるまでの日数である回帰日数は46日であり、同一場所の継続的な観測が可能である。[参照元に戻る]
◆PALSAR (Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar)
最先端技術を結集して、経済産業省とJAXAにより共同開発された合成開口レーダー。合成開口レーダーは、霧や雲への透過性の高いマイクロ波を用いることで、天候や昼夜を問わず広範囲な地表面の観測が可能である。高分解能レーダーであるPALSARは、地球温暖化問題や災害被害把握、極域環境監視といった地球環境計測に必要不可欠なセンサーである。[参照元に戻る]