独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)サステナブルマテリアル研究部門【研究部門長 中村 守】環境セラミックス研究グループ 穂積 篤 主任研究員は、水を極めてよくはじく新しいアルミニウム表面処理技術を開発した。
現在、アルミニウム表面の超はっ水処理の多くは、陽極酸化に代表される電気化学処理により表面を凹凸化させた後、フッ素含有基/アルキル基をもつシランカップリング剤溶液を用いて処理されている。
今回開発した処理技術では、アルミニウムを熱水処理した後、フッ素系イソシアネート化合物(-N=C=Oをもった分子)の蒸気にさらすことで膜厚1nm程度の単分子膜を形成させた。イソシアネートは非常に高い反応性を示す分子であり、アルミニウム表面と化学結合(ウレタン結合)し、さらに分子同士も、横方向に水素結合するため、非常に安定な単分子膜となる。また、本手法は、1)蒸気を利用するため廃液がでない、2)反応の再現性がよい、3)溶液法のように重合物が生成しにくい、といった点で有利である。得られた表面は極めて高いはっ水性を示した。その水滴接触角は、前進接触角167°/後退接触角165°と、ヒステリシス(前進接触角/後退接触角の差)が極めて小さいため、水滴は表面を容易に転がっていく。また、この表面処理によってもアルミニウムの金属光沢は失われない。
本処理技術によりアルミニウム表面の汚れ防止効果や、流体(水)と表面との流動抵抗の減少が期待でき、化学プラントや建物内配管などにおける流体搬送用動力の低減、流体への添加剤不要(低環境負荷)、腐食防止による長寿命化などによって、省エネルギー化に貢献できる。
本技術の詳細は、2009年5月11日にアメリカ化学会の学術誌Langmuirのオンライン版に掲載された。
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本処理を行ったアルミニウム表面上の水滴
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エネルギー資源に乏しい我が国では、省エネルギーに資する新しい材料/製造プロセスの開発が求められている。生物を微細構造という観点からみると、精密なナノ構造デバイスの集積体といえる。このような、生物の構造による特異な機能を手本にした材料/製造プロセス技術は、革新的な技術であり、省エネルギー・省資源の観点からも、そのような技術の開発が望まれている。
これまで、有機シラン分子の自己組織化による単分子膜を利用して、新たな機能を付与する表面処理技術、特に、フッ素系の有機シラン分子によって、ガラスやシリコン表面に単分子膜を形成し、汚れ付着防止、耐摩耗性、はっ水性を付与する研究開発を行ってきた。
今回、蓮の葉が(蓮の葉の表面には、はっ水性をもつ小さな針状の突起が多数存在する)もつ驚異的なはっ水性という機能に注目し、イソシアネート化合物の優れた反応性を利用した金属表面処理技術の研究開発を実施した。
今回、アルミニウム表面をイソシアネート化合物の蒸気に暴露させると、イソシアネート化合物の自己組織化により表面に単分子膜が形成されることを見出した。図1に示すように、アルミニウムを沸騰水中で5分以上処理(熱水処理)すると、アルミニウム表面の酸化膜(Al2O3)と水が反応し、表面にベーマイト(AlO[OH])が形成され、このベーマイトが熱水に溶解することが知られている。この化学的な効果とキャビテーション(物理的効果)により、表面に高さ10~15nmの針状の微細構造が形成される。この基板を、フッ素系イソシアネート(固体)とともに窒素雰囲気下でテフロン容器内に密閉し、150℃の乾燥器中で3日間反応させると、膜厚1nm程度の単分子膜が形成される(図2)。この単分子膜は、アルミニウム表面の水酸基(アルミノール)と反応して、化学的に結合(ウレタン結合)し、さらに分子同士も水素結合しているため非常に安定である。
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図1 処理工程図
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図2 アルミニウム表面にナノ構造を形成したイソシアネート単分子膜の模式図
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処理後の表面は、熱水処理による表面のナノ構造化による効果と、フッ素系イソシアネート単分子膜による表面エネルギー低下の効果があいまって、超はっ水表面となっている(写真)。この表面の水滴接触角は前進接触角167°/後退接触角165°と、ヒステリシス(前進接触角/後退接触角の差)が極めて小さく、水滴は容易に転がっていく。また、処理後の表面を水中に1ヶ月放置しても接触角の低下や、アルミニウムの腐食は確認されず、さらに長期間の試験を継続中である。なお、今回開発した熱水/イソシアネート単分子膜処理をほどこしてもアルミニウムの金属光沢は失われなかった。
アルミニウム表面にこのような超はっ水性が付与されると、耐腐食性向上(メンテナンスフリー化)や、アルミサッシなどへの汚れ付着防止効果の付加が期待できる。また、化学プラント、建物内配管、水道設備、その他流体を利用する装置などに適用すると、流体の流動抵抗の低下により、流体搬送用動力の低減や、流体への添加剤が不要となるため環境負荷の減少といった効果が期待できる。
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写真 本処理を行ったアルミニウム表面上の水滴
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今回開発した処理技術により、アルミニウムの耐腐食性向上や、汚れ付着防止効果の付加、配管の流動抵抗低減などが期待できる。今後、技術移転によって、本処理技術の実用化をめざす。