独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)サステナブルマテリアル研究部門【部門長 中村 守】は、中部センター内に環境調和型建材実験棟を竣工させ、気象や室内環境などの計測機器等の整備を行った。
同部門で開発中の革新的省エネ建材である「調光ガラス」、「木製サッシ」、「調湿材料」、「保水材料」、「太陽エネルギー制御壁」など各種省エネルギー建築部材を実験棟内外に設置し、それぞれの部材の実際の使用環境における省エネルギー性能や耐久性などの評価計測を開始している。
これまでも革新的省エネ建築部材の開発は国の内外の研究機関で行われてきているが、その評価のほとんどが室内の実験スペースにおいて実施され、実際の使用環境下において評価されることはほとんどなかった。
この実験棟で、実環境下での部材評価を行うことにより、省エネ建築部材の実用化普及を促進させ、地球温暖化対策に寄与することが期待される。
|
環境調和型建材実験棟全景
|
2005年2月の京都議定書の発効を受け、地球温暖化対策としてCO2排出量削減が義務付けられた。しかしながら我が国のCO2排出量は産業部門と運輸部門では横ばいになってきているものの、排出量の3割を占める民生部門(業務用+家庭用)では依然として増加を続けている。民生部門の排出で最近特に増加の著しいのは室内温熱環境制御用の空調機器類(エアコン類)だが、単なる省エネルギー機器の導入だけでは限度もあるため、快適性を損なうことなくかつ高度な技術を必要としない省エネルギー技術を開発することにより、民生部門での省エネルギーすなわちCO2排出量削減を図ることが求められている。
このため、サステナブルマテリアル研究部門では、重点研究課題の一つとして革新的な省エネ建材である「省エネルギー型建築部材」の研究開発に取り組んできている。具体的には、建物の窓ガラスのエネルギー透過率を制御する「調光ガラス」、断熱性が高く耐久性・形状安定性に優れた窓サッシを開発する「木製サッシ」、室内の湿度を自律的に制御することで空調負荷を減らす「調湿材料」、屋上やベランダなどの夏季のヒートアイランド現象などを防止する「保水・透水材料」の研究開発を行っている。また、「太陽エネルギー制御壁」(外壁面の工夫による太陽エネルギーの有効利用)の検討も行っている。
これまでも革新的省エネ建材の開発は国の内外の研究機関で行われてきているものの、その評価のほとんどが室内の実験スペースにおいて実施され、実際の使用環境下において評価されたことはほとんどない。
そこで、これらの材料の実使用条件における省エネルギー性能を評価するとともに、耐久性等実使用環境における問題点を把握し、実用化を加速するためにこのほど環境調和型建材実験棟を完成させた。
環境調和型建材実験棟は鉄骨構造3階建、1フロアあたり8m×10mの床面積である。1階は1フロア1室、2階、3階はそれぞれ同一面積の4室に区切っており、建物の方位を正確に東西南北に合わせている。1階は大空間として事務室をイメージしており、2階3階は一般住居の居室をイメージしている。
2階南面2室は「太陽エネルギー制御壁」による省エネルギーの評価を行う予定で、南面全面を壁とし、現在は上面を白色とした三角タイル及び比較用に平面タイルを貼り付けている。三角タイルにより太陽高度が高い夏季には太陽光の反射量を増やし、太陽高度が低い冬季には太陽光をよく吸収させて、季節による太陽エネルギーの建物への流入の自律的な制御の効果を、通常のタイルを貼った場合と比較評価する研究を行う。
2階の北側2室は木質材料室及び調湿材料室として、それぞれの室内壁や天井、サッシに各材料を設置している。3階は調光ミラーを窓に設置し、設置しない部屋と比較する。これらのそれぞれの部屋において、温度・湿度などの室内環境データを計測評価するとともに、同一機種のエアコンを設置し、同一室内条件を維持するために必要な電力消費量からも省エネルギー性能を評価する。
屋上には、保水性タイルの設置を行い、敷設の有無による屋上面並びに直下天井裏への温度上昇防止効果を評価するとともに、材料の耐久性等も評する。また、室外気象条件を計測するための日射計、風向風速計などの気象計測機器も設置している。データは3階北側部屋に設置したパソコンで収集解析する。
太陽エネルギー制御壁
|
|
木質材料室
|
|
|
|
屋上での保水材料試験
|
|
|
調光ガラス、外壁タイル、屋上保水性タイルについては、直ちに各季節での効果を評価するため、計測を開始している。木質材料と調湿材料については、まず、建築時に設置した市販の木質壁やサッシ、また市販の調湿タイルでの室内環境の評価を行った後に、当部門で開発中の木質材料や調湿材料に交換してその性能を評価する予定にしている。