独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)新燃料自動車技術研究センター【研究センター長 後藤 新一】は、バイオ混合DME発電システム開発コンソーシアム【管理法人 にいがた産業創造機構】との共同で、バイオ混合DME発電システム(図1)の開発とこれによる400時間の耐久試験を無事終えました。
この耐久試験は、関東経済産業局の地域新生コンソーシアム事業(平成18~19年度)により、実施してきており、現在、耐久試験後の総合性能評価やエンジン性能および燃料噴射系の分解調査を行っていますが、およそ良好な結果が得られています。
本事業を先駆けとして、排ガスがきれいで燃費のよいDMEディーゼルエンジンの利用が促進されることで、地球温暖化対策にも貢献できることから、導入促進に向けて、今後は技術と法体系との整合性をとるために必要な情報を整理するとともに、実用化や普及に向けた検討をさらに進めていきたいと考えています。
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図1 開発した可搬型バイオ混合DME発電システム(50 kW出力) |
地球温暖化の対策として、バイオ燃料の利用推進やエネルギーロスの小さい分散型発電システムの普及促進は急務となっており、加えて高騰を続ける石油資源に対するエネルギーセキュリティとしての非石油系新燃料の導入に大きな期待がかかっています。
分散型発電システムは、送電ロスの低減や発生した余剰熱の有効利用による総合エネルギー効率の向上により、地球温暖化の原因となるCO2排出量を抑制できる可能性をもつシステムとして、「地球温暖化対策の基本方針」や「エネルギー基本計画」などに盛り込まれ、その普及促進が国策として進められています。
発電システムの原動機に軽油等を燃料とするディーゼルエンジンを搭載したディーゼル発電システムは、分散型発電システムの中でも他の方式に比べ発電効率が高く、初期投資が安価で耐久性に優れていることにより経済性の面では従来優位な位置付けとなり普及してきました。一方、軽油など石油系燃料を使用することによる大気汚染等「環境への適合」の問題や原油の需給逼迫による価格の高騰、および原油供給源の中東依存度が高いことによる「安定供給と経済性の確保」への不安が近年顕在化しております。
ジメチルエーテル(DME)は燃焼時にすすを発生せず、ディーゼルエンジンの大気汚染対策としては抜群の優位性を持つ非石油系新燃料である一方、現状では主に天然ガスや石炭から合成ガスを経て製造されるため、地球温暖化対策として現状ではCO2削減効果が高くないものです。また、その燃料特性から、ディーゼルエンジンに使用する際は潤滑性向上剤の添加が必要になります。
一方、植物を原料とし抽出精製される植物性油脂(バイオ燃料)は京都議定書上ではCO2を排出しない取り決めになっており、地球温暖化対策としてのCO2削減効果は高くなります。しかし、その燃料物性からすす等大気汚染物質の排出はDMEほどの優位性はなく、酸化安定性や低温流動性の低さなど、それ自体では解決しづらい特性を持っています。
本事業は、関東経済産業局の地域新生コンソーシアム事業(平成18~19年度)により、バイオ混合DME発電システム開発コンソーシアムとして、図2の体制で開発を行ってきました。本事業では、DMEの持つ高い溶解性を利用し、ディーゼルエンジン、DMEおよび植物性油脂各々のメリットの相乗効果およびデメリットの相互補間効果を最大限に引き出す、DMEと植物性油脂の最適混合燃料および同燃料による発電システムの開発を行いました。
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図2 バイオ混合DME発電システム開発コンソーシアム体制 |
本事業では、資源の多様性とクリーン性を備えたDMEと、地球温暖化対策となるバイオ燃料との混合燃料による発電システムを開発し、「エネルギー安定供給の確保」「環境への適合」「高い経済効率」の要素を持った理想的分散型エネルギーシステムを構築し普及拡大を図ることを目的としました。開発対象は、災害対策用や外食産業等小規模商用施設への潜在的導入需要が見込まれる可搬式の50 kWクラス発電システムです。以下に開発内容と目標および研究開発を通じて得られた成果を記します。
● 開発内容と目標
1)燃料の最適化
バイオディーゼル燃料とDMEの最適混合割合の検討
2)発電システムの開発
・NOX < 100 ppmの性能目標
・発電機として製品相当の性能を確保
3)400時間の耐久試験実施
課題抽出と解決による完成度向上
● 得られた成果
1)燃料の最適化
バイオディーゼル燃料としてパーム油メチルエステルを質量割合で10%混合したDMEを、本事業の最適燃料として使用しました。本来低温流動性の悪いパーム油メチルエステルも、DMEとの混合利用とすることで国内のほとんどの地域・季節に使用可能な低温流動性(曇り点-16.7℃)を確保することができました。また、パーム油メチルエステルを10%混合しても、すすの発生はないことを確認しました。
2)発電システムの開発
燃料噴射ポンプの潤滑オイルを外部供給システムとすることで、液化ガスと液体の混合燃料でもエンジンの連続運転を可能にしました。
NOXなどの目標値を達成するバイオ混合DME発電システムが完成しました。この開発機の性能は、本コンソーシアムメンバーで発電システム開発主担当の北越工業(株)の製品規格を満足しています。
3)400時間の耐久試験実施
開発機を使用した400時間の耐久試験を無事終了しました(2007.11.16)。
耐久試験終了後、発電システムの総合性能評価を行いました。その結果、耐久試験前と同等の性能を維持していることを確認しました。また、耐久試験後の燃料噴射ポンプ及びインジェクタを分解調査した結果、耐久性に関わる各パーツの異常摩耗及び劣化等は確認されず、本事業で最適燃料としたパーム油メチルエステル10%混合DMEの実証性を確認しました。
耐久試験中に抽出された課題を個々に解決することで完成度が向上し、開発機の実用性及び実証性を向上させました。
上述のように、研究開発を通じて技術的な課題を克服し、実用化を可能とする成果が得られました。しかし、天然ガスを原料とし、化学合成により作られた液化ガスであるDMEを主燃料とするディーゼルエンジンを原動機として搭載した可搬式の発電システムは前例がなく、現行の法令では解釈の困難な事例が見えて参りました。今後は技術と法体系との整合性をとるために必要な情報を整理するとともに、実用化に向けた検討をさらに進めていきたいと思います。