発表・掲載日:2007/03/27

奥行きの違うものを見る眼球運動に必要な大脳皮質領域を同定

-上下左右、前後に体が動いても、ぶれを防いで見たいものを見続けるために-

ポイント

  • 物体の動きに合わせて眼の動きを精密に制御するのは、大脳皮質の後頭・頭頂連合野の一部であるMST野(Medial Superior Temporal Area)の働きであることを発見した。
  • スポーツ選手の動態視覚情報処理メカニズムの解明、脳機能障害患者の診断・機能改善につながる。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】脳神経情報研究部門【部門長 岡本 治正】の 竹村(たけむら) 文(あや) 研究員と、京都大学 河野憲二 教授、米国国立衛生研究所(NIH)の Fred A Miles 博士は、スポーツ選手にとって重要な動体視覚を制御する大脳皮質領域の特定に成功した。

 激しく動いているスポーツ選手たちは、動きの有る視野からでも精確な「視覚情報」を得ているし、また、正常な人間であれば、3次元空間で動いているとき、見ている視野全体が突然、上下左右、あるいは前後方向にゆれても、約0.05秒後には、良好な視野を保っている。それは動きに合わせて眼球の動き(眼球の輻輳開散運動)を精密かつ緻密に制御することで実現しているためである。

 産総研では、この眼球の輻輳開散運動を精密に緻密に制御しているのが大脳の後頭・頭頂連合野の一部である大脳皮質MST野(頭頂の間溝付近)であることを初めて明らかにした。

図 奥行きの手がかりとなる視差と輻輳開散運動 今回の成果は、3次元空間で常に動いている人間が、いかに瞬時に奥行き方向を含めた自分の動きを補正して、より精確に「視覚情報」を得ているかの脳内視覚情報処理メカニズムの解明につながり、スポーツ選手の技能向上のトレーニング改善法や、脳内出血などにより後頭・頭頂連合野の機能が低下した患者の診断・症状理解や機能改善に役立つことが期待されている。

 今後は、視覚以外の情報(前庭などの自己運動の情報)や、予測や学習といったメカニズムとともに感覚運動変換処理メカニズムを調べていく。

 本成果は、米国神経科学誌「Journal of Neuroscience」2007年 1月17日号に掲載された。

お問合せ先

竹村 文(たけむら あや)
a.takemura*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
脳神経情報研究部門