産総研トップへ

企業の声:日本工営株式会社

取材日:2017年2月28日

被災地企業のシーズ支援事業インタビュー

日本工営株式会社
電力事業本部 福島事業所
研究開発室 課長 小川 隆行様

担当研究者:再生可能エネルギー研究センター
エネルギーネットワークチーム
研究員 橋本 潤

産総研の膨大な技術と知見を活用

当事業を知ったきっかけと応募理由をお聞かせください。

日本工営株式会社:
福島再生可能エネルギー研究所が平成26年4月に開所した当時から、地元ということもあり、ホームページなどは良く見ていました。また、弊社も再生可能エネルギーという新規分野で事業をスタートしようとしていた時期でしたので、シーズ支援プログラムという事業があるということも、早い時期から知っていました。

そのような当時の背景の下、蓄電システムに関する研究を弊社で実施していたこともあり、平成27年度のシーズ支援プログラムに「再生可能エネルギー出力安定化システムの開発」のタイトルではじめて応募しました。当時、開発中であったシステムの性能評価で、太陽光発電のシミュレータ、系統側のシミュレータ、高精度な計測設備などを必要としておりましたので、「まずは相談してみよう」というのが、きっかけだったと記憶しています。

当所研究者に技術的支援(具体的な取組み)を受けた感想・効果をお聞かせください。

日本工営株式会社:
初年度(平成27年度)は、「再生可能エネルギー出力安定化システムの開発」ということで応募させていただきました。こちらは試験項目、試験手法、試験機器などを相談し、色々とアドバイスをいただきました。弊社だけではできなかったレベルの専門的な試験・測定・評価ができ、また製品の性能改良にもつながり、非常に助かりました。

次年度(平成28年度)は、「太陽光発電システム性能・故障診断アルゴリズムの開発」のタイトルで、弊社の太陽光発電モニタリングサービスに発電診断や劣化故障診断の新機能の開発に関する支援をお願いしました。具体的には、日射量に対して正しく発電しているかを診断するため、複数の著名な評価アルゴリズムを紹介していただきました。それぞれのアルゴリズムを評価して特徴を把握できたため、非常に有益であったと考えています。

産総研と一緒にやることで御社内の研究活動や体制、技術者の意識などに何か変化などありましたか?

日本工営株式会社:
弊社は、社内実施中の再エネ関連の研究開発となるべく併せる形でシーズ支援プログラムに申込んできました。ですので、弊社の研究活動とシーズ支援プログラムの実施体制はほぼ一致しています。

技術者の意識という面では、産総研の研究員の方々と交流でき、研究開発に取り組む弊社の社員の姿勢にも影響があったと思います。私の所属は研究開発室ですが、室員は当初から研究員として入社するわけではなく、技術者として現業部門に入社し、何年か経ったところで研究開発室に配属となります。そういった弊社の技術者が、産総研の研究員の方と交流でき、研究者としての考え方、問題を解決していく姿勢や手順などを知ることができ、良い影響は多かったと思います。

製品評価について、評価方法の選定、検討の過程、得られた結果について感想をお聞かせください。

日本工営株式会社:
初年度(平成27年度)の「再生可能エネルギー出力安定化システムの開発」では、当時、蓄電システムの評価方法に関して何らかの業界標準に従った方法を模索していました。シーズ支援プログラムではパワーコンディショナーを評価するための試験方法を教えていただき、それをアレンジして適用しました。

次年度(平成28年度)の「太陽光発電システム性能・故障診断アルゴリズムの開発」では、複数のアルゴリズムを、福島再生可能エネルギー研究所内の太陽光発電設備、弊社福島事業所内の太陽光発電設備の両方のデータを用いて評価しました。成果として、複数のアルゴリズムのそれぞれについて、特性や誤差範囲などを明らかにできたと考えています。

産総研の支援により、事業化予定の前倒し・加速などの効果はありましたか。

日本工営株式会社:
「再生可能エネルギー出力安定化システムの開発」では、日射量の変動に従って発電量が細かく変動する太陽光発電の短周期変動を、蓄電池で平準化するシステムの開発を目指していました。シーズ支援プログラムを申請した当時は、日本の太陽光発電所に適用されていく可能性が高い技術だと考えていました。しかし、日本の太陽光発電業界では、その後、短周期の変動対策はあまり注目されず、出力抑制やピークシフトといった中・長周期の発電量調整にニーズが移ってしまいました。ですので、現状では、すぐに製品化することは難しい状況と判断しています。しかし、短周期変動対策の技術自体は、スマートグリッドの実現などにおいて確実に必要ですので、今後、活用の範囲は広がる、と期待しています。

また、「太陽光発電システム性能・故障診断アルゴリズムの開発」では、シーズ支援プロラムの中でアルゴリズムの評価まで完了しましたので、今後は具体的に太陽光発電モニタリングサービスに機能追加する検討を弊社で進めていきます。製品化に向けた検討時期が早まりましたので、シーズ支援プログラムの効果はあった、と感じています。

事業化に向けて残っている課題に対して期待する支援を教えてください。

日本工営株式会社:
「再生可能エネルギー出力安定化システムの開発」では、技術的に実現可能だということはシーズ支援プログラムで実証できましたが、蓄電池として使用しているリチウムイオンキャパシタが高価であることは、課題の一つと考えています。ですので、技術的な支援というよりは、蓄電池関連の市場や技術の最新動向について、引き続き情報提供などの形でご支援いただければ、と期待しています。

当事業についての意見や改善点または魅力など教えてください。

日本工営株式会社:
魅力という点では、人材交流の幅が広がるというところは非常に大きいと考えています。研究員の方々とディスカッションができ、またシーズ支援プログラムを活用している他の企業の皆様と色々なお付き合いや情報交換ができるなど、多くのメリットがあることが分かりました。

また私自身、福島再生可能エネルギー研究所主催のワークショップの講師を務め、貴重な経験をさせていただいたと共に人脈も広がり、非常に感謝しています。

御社での公的支援制度の活用実績を教えてください。

日本工営株式会社:
公的支援制度の活用ということでは、経済産業省などの補助金の活用が該当すると思います。今年度は、「バーチャルパワープラント構築事業(A事業)」(一般社団法人エネルギー総合工学研究所)に応募し、採択を頂きました。太陽光・蓄電池をはじめ、これまで弊社が研究開発を通じて培ってきた技術を活かして実施しています。来年度も本事業は継続予定ですので、これまでのシーズ支援プログラムの成果も活用し、弊社の新たな事業の創出につながれば、と考えています。

東日本大震災の後、御社で新たに取組んでいることはありますか?

日本工営株式会社:
大震災後の2012年からの研究開発の大きな流れとしては、太陽光発電モニタリングサービスから始まり、蓄電システム、エネルギーマネージメントシステムと取組んできました。今後は、バーチャルパワープラントなど、大きな視点でエネルギーを有効活用する技術・製品を研究開発していく予定です。

産総研又はFREAに望むこと、期待することはありますか?

日本工営株式会社:
技術面も重要ですが、最先端の市場ニーズや動向、例えば太陽光なら業界動向やトレンドなどを教えていただける仕組みがあっても良いと思います。産総研では国内外の市場動向や技術トレンドなどを調査していると思いますので、うまく企業側に提供頂けるようになれば、と期待しています。また、地域の産学連携、産産連携の取組みは、ぜひ継続していただければと思います。

今後、再エネの技術を活用したいと考えている(が、まだ踏み出せていない)企業の方へのメッセージをお願いします。

日本工営株式会社:
今の再エネ業界において、企業が生き残るには、価格競争だけでは難しく、付加価値のある製品やサービスが必要だと思います。そのような状況の中、大きな費用負担なく技術支援を受けられるシーズ支援プログラムのような仕組みを活用することは、非常に有効だと考えています。
また、先ほど申しましたとおり、これからは福島県内・県外も含め、地域の産学連携、産産連携が重要になってくると思います。産総研が提供する取組みやサービスを活用し、いろいろな企業や研究機関・団体が連携を深めていくことが、今後、日本企業の国際競争力の強化という視点でも重要ではないか、と感じています。

これまでの支援状況

再エネ管理分野
  • 大型太陽光発電システムの出力変動緩和対策の最適化「再生可能エネルギー出力安定化システムの開発」(平成27年度)
  • 太陽光発電システム性能・故障診断アルゴリズムの開発(平成28年度)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所